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坂口安吾 21世紀の日本人へ
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商品詳細
内容紹介 | |
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販売会社/発売会社 | 晶文社/ |
発売年月日 | 1999/01/30 |
JAN | 9784794947154 |
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坂口安吾
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日本文化私観 p18俗悪について 僕たちは五六名の舞妓を伴って東山ダンスホールへ行った。深夜の十二時に近い時刻であった。舞妓の一人が、そこのダンサーに好きなのがいるのだそうで、その人と踊りたいと言い出したからだ。ダンスホールは東山の中腹にあって、人里を離れ、東京の踊り場よりは遥...
日本文化私観 p18俗悪について 僕たちは五六名の舞妓を伴って東山ダンスホールへ行った。深夜の十二時に近い時刻であった。舞妓の一人が、そこのダンサーに好きなのがいるのだそうで、その人と踊りたいと言い出したからだ。ダンスホールは東山の中腹にあって、人里を離れ、東京の踊り場よりは遥かに綺麗だ。満員の盛況だったが、このとき僕が驚いたのは、座敷でペチャクチャ喋っていたり踊っていたりしたのではいっこうに見栄えのしなかった舞妓たちが、ダンスホールの群衆にまじると、群を圧し、堂々と光彩を放って目立つのである。つまり、舞妓の独特のキモノ、だらりの帯が、洋服の男を圧し、夜会服の踊り子を圧し、西洋人もてんで見栄えがしなくなる。なるほど、伝統有る者には独自の威力があるものだ、と、いささか感服したのであった。 同じことは、相撲を見るたびに、いつも感じた。呼出につづいて行司の名乗り、それから力士が一礼しあって、四股をふみ、水をつけ、塩を悠々とまきちらして、仕切りにかかる。仕切り直して、ややしばらく睨み合い、悠々と塩をつかんでくるのである。土俵の上の力士達は国技館を圧倒している。数万の見物人も、国技館の大建築も、土俵の上の力士達に比べれば、あまりに小さく貧弱である。 これを野球に比べてみると、二つの相違がハッキリする。なんというグランドの広さであろうか。九人の選手がグランドの広さに圧倒され、追いまくられ、数万の観衆に比べて気の毒なほど無力に見える。グランドの広さに比べると、選手を草刈人夫に見立ててもいいぐらいに貧弱に見え、プレーをしているのではなく、息せき切って追いまくられた感じである。いつかベーブルースの一行を見た時には、さすがに違った感じであった。板についたスタンドプレーは場を圧し、グランドの広さが目立たないのである。グランドを圧倒しきれなくとも、グランドと対等ではあった。 別に身体のせいではない。力士と言えども大男ばかりではないのだ。また、必ずしも、技術のせいでもないだろう。いわば、伝統の貫禄だ。それあるがために、土俵を圧し、国技館の大建築を圧し、数万の観衆を圧している。しかしながら、伝統の貫禄だけでは、永遠の生命を維持する事はできないのだ。舞妓のキモノがダンスホールを圧倒し、力士の儀礼が国技館を圧倒しても、伝統の貫禄だけで、舞妓や力士が永遠の生命を維持するわけにはゆかない。貫禄を維持するだけの実質がなければ、やがては亡びるほかに仕方がない。問題は、伝統や貫禄ではなく、実質だ。
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