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回転する世界の静止点 初期短篇集 1938-1949
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回転する世界の静止点 初期短篇集 1938-1949

パトリシア・ハイスミス(著者), 宮脇孝雄(訳者)

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回転する世界の静止点 初期短篇集 1938-1949

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商品詳細

内容紹介 内容:素晴らしい朝. 不確かな宝物. 魔法の窓. ミス・ジャストと緑の体操服を着た少女たち. ドアの鍵が開いていて、いつもあなたを歓迎してくれる場所. 広場にて. 虚ろな神殿. カードの館. 自動車. 回転する世界の静止点. スタイナク家のピアノ. とってもいい人. 静かな夜. ルイーザを呼ぶベル
販売会社/発売会社 河出書房新社
発売年月日 2005/01/22
JAN 9784309204253

回転する世界の静止点

¥2,475

商品レビュー

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2025/05/06

毎日新聞2025年4月12日号読書欄に掲載されていた「パトリシア・ハイスミスの華麗なる人生」についての川本三郎さんの書評を興味深く読んだ。川本さんによると、ハイスミスはポーやメルヴィルを好んで読むような少女であった一方で、「精神病の専門医が書いた、精神障がい者の症例を集めたカタロ...

毎日新聞2025年4月12日号読書欄に掲載されていた「パトリシア・ハイスミスの華麗なる人生」についての川本三郎さんの書評を興味深く読んだ。川本さんによると、ハイスミスはポーやメルヴィルを好んで読むような少女であった一方で、「精神病の専門医が書いた、精神障がい者の症例を集めたカタログを読みふけった」らしい。 川本さんはさらに後年のハイスミスがノートに残した記述も書評で引用している-「おぞましいもの、残酷なもの、普通でないものにわたしは惹きつけられる」「ごく普通の人生ではありながら、異常性に心を惹かれ、最後には読者も主人公がちっとも異常ではなく、もしかしたら自分自身であり得ると考えるような小説」etc.  読書の力とは本当に大きいと改めて思う。なぜなら現実に私がハイスミスと同年代だったとしても、私が彼女を女性として迎え入れることは、その精神世界の特異さや深遠さゆえにかなわなかったはず。でも彼女の人並み外れた想像力が結晶化した作品を読むことで、私は彼女のメンタリティー(しかもその深い部分)に触れることができるのだから。 本当ならばハイスミスの評伝でそれを成就したかった。でも価格を見て私にはすぐに買うのがためらわれた。そのために図書館の在庫にあったこの短編を彼女の作品の初読として選んでみた。 巻末の収録作品一覧を見ると、14編のうち8編は未発表。それでも、昔のLPレコードにあったようなLPとしての曲数を維持するための“水増し”作品は見られない。どの短編でも彼女の個性がプリズムに光をあてた時のような豊かな色彩を放ち、ハイスミスが単に出版社や読者の意向に流された作品を生み出すような通俗作家(日本で○○賞作家とか呼ばれて勘違いしている物書き)では決してなかったことをうかがわせる。したがって読者は短篇集のなかから自分の気に入った作品を自由に選ぶことができる。他のレビューを読むと表題作や「カードの館」に人気が集まっているが、私は違う作品を推したい。 1つ目が「魔法の窓」。私の百の説明よりも、いくつかの引用のほうが的を射るはず。 -「ヒルデブラントは、あの寂れた酒場に夜ごと足を運ぶのが魔法の窓のせいだと気がついていたが、そのことは自分の胸にしまい、他人に打ち明けるつもりはなかった。」 -「おれは寂しいのではなく、ひどく孤独なだけだ。と彼は思った。…自分には友だちがたくさんいる。相手が男であっても女であっても、そのことは嘘偽りなく断言することができるが、実際には友だちなど退屈なだけで、閑職の心地よさにあぐらをかくことがないように、この決まりきった出来事の繰り返しこそが自分の人生のすべてなのだと念を押してくれる役割を果たしているにすぎなかった。」 この孤独と退屈とを酒場でつぶやく毎日を過ごす男が、「魔法の窓」の方角から1人の女性が入ってくるのを目にする、というストーリー。実は女性も孤独を抱えていて、それを察知した男が近づくのだが… ハイスミスの良いところを1つ挙げろと言われれば、孤独を描くのがうまい作家だと言いたい。男の孤独、女の孤独。2つの異なる孤独が近づき、そしてどうなるか。結末は当然書けないが、ハイスミスの用意した結末は私たちにとって素直に受け入れられるものか、あるいは納得できないものか。人によって感想は正反対になりうるはず。 なお、男性を主人公にした「魔法の窓」と対をなすとも言える、女性を主人公にした「ルイーザを呼ぶベル」も、未婚のまま年齢を重ねた女性の孤独感と、それを覆す出来事による胸の高まりがうまく書かれた佳作だ。 あと、誰も「いいね」しないだろうけれど、私が気に入った作品をもう1つ挙げたい。それは「ミス・ジャストと緑の体操服を着た少女たち」。 ミス・ジャストは女子校の体育の先生。式典で披露するマスゲームのような集団演技を女子生徒にもう何か月もかけて指導しているのだが、本番が近いのに体育館の壇上から見る演技は全然さまにならない。緑の体操服というのはたぶん、当時女子生徒が着用していた緑色のブルマだと思う。音楽に合わせて規則性をもって動く女子生徒と、壇上に不動の姿勢で立つミス・ジャストとの動と静との描写も映像的でおもしろいが、それ以上に結末ではこの短編集には珍しいコメディタッチの展開が用意されていて、ハイスミスの作家としての引き出しの多さを感じさせる。

Posted by ブクログ

2025/03/07

初期短篇集ということで、さまざまな味わいの作品をひと通り楽しめるボリュームたっぷりの一冊。 特に気に入ったのは、 「素晴らしい朝」 「ドアの鍵が開いていて、いつもあなたを歓迎してくれる場所」 「自動車」 「スタイナク家のピアノ」 「とってもいい人」 気づかないうちに坂を転がり...

初期短篇集ということで、さまざまな味わいの作品をひと通り楽しめるボリュームたっぷりの一冊。 特に気に入ったのは、 「素晴らしい朝」 「ドアの鍵が開いていて、いつもあなたを歓迎してくれる場所」 「自動車」 「スタイナク家のピアノ」 「とってもいい人」 気づかないうちに坂を転がり落ちていたり、一生懸命頑張っているつもりが空回りしていたり、日常のほんの小さな出来事を繊細な筆致で描いている描写が(皮肉を含めて)素晴らしい。 書店ではなかなか手に入りにくいかと思いますが、大きめの図書館なら蔵書にあるかも。 「11の物語」を気に入った方には、是非一読していただきたいです。

Posted by ブクログ

2013/03/09

ひとりの人間の中には善意もあれば悪意もある。悪人と呼ばれる人間の心の中は悪意ばかりが満ちているわけではないし、市井に住む普通の人々の心の中にだって、どす黒い悪意が潜んでいないわけがない。人は、普通自分の中にある悪意(それは嫉妬であったり、横恋慕であったり、稀に殺意であったりするが...

ひとりの人間の中には善意もあれば悪意もある。悪人と呼ばれる人間の心の中は悪意ばかりが満ちているわけではないし、市井に住む普通の人々の心の中にだって、どす黒い悪意が潜んでいないわけがない。人は、普通自分の中にある悪意(それは嫉妬であったり、横恋慕であったり、稀に殺意であったりするが)を意識の上に長く止め置いたりはしない。もし、始終そうした悪意が意識の上に立ち上ってくるようなら、人は平静ではいられない。だから、こみ上がってくる悪意の塊を無理矢理呑み込み、無意識の奥底に送り込んで、素知らぬ顔で毎日を生きているのだ。 善意の人ばかりが行き交ったり、善人と悪人が二つに分かれて闘ったりする話も世の中には多いが、そんな話ばかり読まされていると、なんだか落ち着かなくなってくる。たぶん、無意識に送り込んだ自分の古ぼけた悪意の澱が微かに反応しているのだろう。「そんな風に生きていければ苦労はないよなあ」と、心のどこかで呟いている自分がいる。 ハイスミスは、ごくごく普通の人々の暮らす世界の中に突然訪れる戦慄のような瞬間を捉えるのが上手い。モノクロームの単調な色彩で描かれていた世界が、その瞬間だけ極彩色に彩られ、やがて、まるで何事もなかったかのようにもとの淡々とした無彩色の世界に戻ってゆく。人物たちは物語の中で相も変わらぬ日常を生きるのだが、その一瞬を垣間見た読者の方には、ざらっとした触感や苦い後味がいつまでも残る。世界の剥き出しの悪意の味だ。 ハイスミスの未発表作品を含む初期短編が14編。掌編と読んでもいい作品の中に、却って非日常の瞬間を剔り取ったような味わいの作品が多い。どこか『シベールの日曜日』を思わせる、男と少女の無垢な魂の触れ合いが周囲からの誤解によって潰えてゆく「素晴らしい朝」。その裏返しのような、行きずりの男にドライブに誘われた少女が、誘われなかった方の少女の告げ口で未然に家に戻るという「とってもいい人」。いずれもヒリヒリするような人間心理の洞察が光る。 長めの短篇というのも変だが、代表作『太陽がいっぱい』を髣髴させる美青年の野望と挫折を描いた「広場にて」も忘れがたい読後感を残す。持ち前の美貌と才気でのし上がってゆくメキシコ人青年のぎらぎらした欲望が、知的ではあるが人生を楽しむことを忘れた醜い富豪の女性に結婚を決意させるまでの顛末。映画にしたいようなメキシコの乾いた空気と空と海の色。眩しさの中に頽れてゆく美と愛がせつない。 極めつけは、贋作ばかりを蒐集するので有名なコレクターが、なぜか見誤ってジヨットの真作を競り落としてしまう「カードの館」。オークション会場で聴いた老嬢のピアノは優れた技量が人を魅了しながら、本人はピアノを憎んでいるのが、主人公には分かる。自然を憎み人工を称揚する彼には人の知らない秘密があった。その秘密が彼と老嬢の心を繋げたのだった。アイロニーに満ちた芸術観の裏から不幸な人間に寄せる愛情がのぞく、この作者にはめずらしい温かな読後感を残すメリメ風の短篇。極上の名品をどうぞ、ご賞味あれ。

Posted by ブクログ