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菊日和 母の日記が語る父との恋とあの頃の東京の暮らし
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商品詳細
内容紹介 | |
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販売会社/発売会社 | 雄山閣/ |
発売年月日 | 2005/12/10 |
JAN | 9784639019169 |
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筆者の波乃久里子は新派を代表する女優。昨年三月襲名した十八世勘三郎の姉、先代勘三郎の娘である。『菊日和』の「菊」とは、いうまでもなく、筆者にとっての祖父、六代目尾上菊五郎を指す。九代目といえば團十郎、六代目といえば菊五郎と言われるほどの名優である。筆者の母久枝は、その六代目菊五郎...
筆者の波乃久里子は新派を代表する女優。昨年三月襲名した十八世勘三郎の姉、先代勘三郎の娘である。『菊日和』の「菊」とは、いうまでもなく、筆者にとっての祖父、六代目尾上菊五郎を指す。九代目といえば團十郎、六代目といえば菊五郎と言われるほどの名優である。筆者の母久枝は、その六代目菊五郎が新橋の芸者君太郎に生ませた子。平易にいえば妾腹の子である。ただ、本妻との間に子どもがなかったこともあり、麹町に別宅を構えた後も久枝たち兄妹は本妻を芝のお母様と呼ぶような関係の裡にあった。 この本は、娘である波乃久里子が、仏壇の陰から母久枝が東洋英和学校に通っていた頃の日記を発見したことから始まる。父からは、十五歳も年の離れた結婚で、勘三郎(当時もしほ)は変な小父さんと思われ嫌われていた、と聞かされていたのだが、日記を読んでみると、母は本当は父のことが好きだったことが分かる。しかも、宮廷官女の日記がそうであったように後に誰かの目にふれたときのことを考え清書さえされていた。 歌舞伎役者の妻は戦前までは芸妓あがりが多く、同じ役者仲間の娘をもらうことは先例になかったという。それ故の苦労もあり、会話入りで小説風に書かれた日記には、年の離れた歌舞伎役者との結婚が決まるまでの少女の揺れ動く心が、素直に書かれている。しかも、日記に書きとめられた菊五郎一家の生活からは、戦火の東京にありながら、映画見物、レストランでの食事と意外に平静な人々の暮らしぶりまでが読みとれる。 十八世勘三郎の襲名披露公演はテレビで見たが、ところどころに先代譲りの愛嬌を振りまきながらも、現代の歌舞伎界を背負って立つ心意気の感じられる見応えのあるものであった。それだけに、大阪の歌舞伎役者中村歌六の妾腹のしかも末子として生まれたため、名優吉右衛門の弟でありながら、役にも恵まれず、なかなか芽が出なかった頃の先代勘三郎の鬱屈した日々が、ひとしお胸に迫った。 菊五郎の薫陶を受けた十七世中村勘三郎は晩年でこそ名優の誉れ高い役者であったが、若い頃は、恵まれない境遇を恨んで大酒を飲み、役者仲間のつきあいも悪く、その評判はあまりいいものではなかったらしい。時には大向こうから「ダイコン!」のかけ声もとんだとか。日記の中で、もしほが巧い役者になれるよう久枝は一心に祈っている。 歌舞伎界には、吉右衛門と菊五郎が縁戚関係になることを喜ばぬ者もいて、もしほと久枝が結婚するまでにはいろいろ横槍や中傷もあり、菊五郎の気持ちも揺れたらしい。そこへもしほの評判がよくないときている。結婚にこぎ着けるまでの久枝の苦衷は日記の中によく現れている。久枝との結婚を機に、もしほは一大決心し役者修業に専心することになる。中村勘三郎という名跡も、中村座の座元兼役者という由緒のある名だが、ずっと途絶えていたのを先代が今のような大名跡にまで高めたのである。 今の團十郎の父、十一世團十郎は口跡もよく美男で知られるが、結婚前の久枝は実は團十郎に憧れていたらしい。菊五郎がライバルでもあり尊敬もしていた吉右衛門の弟もしほが気に入り、娘の相手にと考えたため、この話はなくなってしまった。十一世團十郎は、今の幸四郎の父、松本白鴎の兄であり、市川宗家に跡継ぎがなかったため養子として市川家の跡を継いだ。二人の結婚は充分「想定内」であったのだ。もし、二人が結ばれていたら現代の歌舞伎界の地図は大幅に塗り替えられていたことだろう。 役者という一般人の目からは見ることのできない異世界のしきたりや慣習の解説もまじえながら、名優の子として生まれ、役者に嫁ぎ、夫を父のような名優にしようと精一杯つとめた母の生涯を、娘の目から愛情細やかに綴ったもの。歌舞伎に関心がある人なら一読をお薦めする。
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