商品レビュー
3
1件のお客様レビュー
ラフカディオ・ハーンを「怪談作家」として知っている読者にとって、その前史を具体的に見せてくれる一冊だった。収録記事は、麻薬や貧困、事件報道など、当時の社会の暗部に切り込むものが多く、現在でいうルポルタージュや暴露記事の先駆けのような熱量がある。 アメリカ時代の結婚問題と失職といっ...
ラフカディオ・ハーンを「怪談作家」として知っている読者にとって、その前史を具体的に見せてくれる一冊だった。収録記事は、麻薬や貧困、事件報道など、当時の社会の暗部に切り込むものが多く、現在でいうルポルタージュや暴露記事の先駆けのような熱量がある。 アメリカ時代の結婚問題と失職といった伝記的背景を踏まえると、のちの日本行きにつながる人生の転機も、より立体的に理解できる。 とくに印象に残ったのは、グロテスクでオカルト的な題材を扱った記事群。 交霊会での逸話や「幽霊騒ぎ」の肩透かしの顛末には、後年の『怪談』へ連なる感受性と語り口がすでに表れていて、皮肉と好奇心が同居する視線がとても面白い。またコギア(コッジャ)彗星騒動を扱った記事のように、社会不安を風刺に転化する筆致にもハーンらしさを感じた。 一方で、読みにくさは確かにあった。独特の文体そのものに加え、訳語や表記の古さ、誤字など翻訳上のノイズが目立ち、没入を妨げる場面もある。 また、中心的な長篇記事『皮なめし場殺人事件』は、法廷記録としては興味深いものの、読後の手触りはやや平板だった。ただし終盤に添えられた怪物譚の後日談まで含めて読むと、事実報道と怪奇趣味の境界を往復するハーンの魅力がよく伝わってきた。
Posted by 