スロー・イズ・ビューティフル 遅さとしての文化 平凡社ライブラリー501

辻信一(著者)

• 販売会社／発売会社: 平凡社/
• 発売年月日: 2004/06/09
• JAN: 9784582765014

商品レビュー

2024/09/01

なんとなく会社で仕事をしているとやたらとスピード感をもって・・・などいった言葉を上層部が口にする、まぁ組織の合理性とか経済成長とかスピード、効率化がさけばれるのはどこの会社もそうなんだろうな、と思う。でも、そんな中でちょっとスピードを落としてみなよ、違った景色が見えるかもよ、と様々なな角度から「遅」、「スロー」を思考する話について書かれた本

何気なく書店で教養文庫コラボフェアとして店頭で宣伝されていたのが目につき、これまでならまぁ読まないよねという類の教養ネタだが、まぁのんびり気長に読んでみるかと購入してみた。読んでみるといろいろと考えさせられて面白かった。

目的、手段、役割をふまえた問題解決アプローチはコスパ効率性から重視で「時は金なり」という考え方は、スピード重視の昨今の考え方だろう。時間的な変化を大切にしてコスパやタイパをわきに置いて、今をていねいに生きると「時は命なり」という考え方に至ることができるのかもしれない。これは相対性理論ではないけど、様々な時間のとらえ方につながる。ていねいに生きることなく、効率性の追求を筆者は「現代社会は準備社会だ」という。より良い将来のめによりよい次を目指す。では効率化された時間の行先はどこなのか？問題解決思考（ある意味ビジネス思考）の呪縛がスピード信仰、準備社会を招くと筆者の論調を解釈できる。うーん、なかなか興味深い考察視点だ。

「時は金なり」という「生産時間」と「時は命なり」という「生物時間」を対比させながら見落とされがちな生きている中での「所要時間」というものを考えさせられる。そう、何かをするにも時間はかかるのだ、これは理解できる。育児、教育、愛情、社会化には「遅さ」が本質的でスピード効率化すると中身を損なわせてしまう非妥協的プロセスだ、と筆者は言う。なるほどねぇ。経済合理性とは違う価値観が本質的であるものを見落とさないように気を付けたほうが人生豊かになりそうだ。これはマーサ・C・ヌスバウムの「経済成長が全てか？」にも通じるものを感じる。

それから、さらにこの本で学んだことがある。それは、「我々の知には、innovation（新しさ）と familiarity（親しさ）」があるということ。未知の領域だけでない、なじみのある既存の場所で留まることによって得られる経験知がある。革新性に惑わされて文化が育んだ遅恵（知恵をあえて筆者がこの語として表現している）を忘れてしまっているのは嘆かわしい、という筆者の言及にははっとさせられるものがあった。案外イノベーションのネタというのは今見ているものの中にあるのかもしれない。あえてスローに生きることを実践したら、時は命なり、時間によって熟成された知恵などを実感して豊かさを感じることができるかもしれない。

2022/01/12

現代社会（できる限り早く、簡単に、多く、生産・流通・消費する社会）とは対極にある「スロー」な社会や生き方を提示し肯定する本。

主題が面白いのに加えて、心に響く言葉も見つけられた。

・商いは、お客さんと、一緒に育てる。
・好きと、社会貢献と、利益が重なることをする。
・抗議や反対運動よりも、より良いものを作りみんなに示してあげる方が有効。
・「自分の行動が他人への迷惑だと考えて、それらを避けようとすれば、自分には家の中で寝たきりの一生しかない。人生に多少の迷惑のかけ合いはつきもの。骨がいつどこで壊れるかもしれないが、自分は外へとび出して、人に声をかけながら生きていく方を選んだ」p.204

2021/03/01

2020年 9冊目
『スローイズビューティフル』
効率とか便利とかじゃなくて、
無駄とか留まることを大事にしたい。たわいもない会話とか誰かとご飯を食べるとか畑で作物を育てるとか家事とか。そういう遅さにこそ大切なものがあるし、地球との共生にも繋がる気がする。

合間にある詩がとても素敵。