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書聖 金正喜評伝
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商品詳細
内容紹介 | |
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販売会社/発売会社 | 草風館 |
発売年月日 | 2005/09/20 |
JAN | 9784883231539 |
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書聖 金正喜評伝
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在日の文学研究者・安宇植(アン・ウシク)が東京都内で死去したのは、昨年暮れのことだった。1930年代に日本語を使って作品を書いていた金史良(キム・サリャン)の諸作、とくに『駑馬万里』といった名高い名文に私たちが出会うことができたのも、安宇植(1932-2010)の尽力ありきのこ...
在日の文学研究者・安宇植(アン・ウシク)が東京都内で死去したのは、昨年暮れのことだった。1930年代に日本語を使って作品を書いていた金史良(キム・サリャン)の諸作、とくに『駑馬万里』といった名高い名文に私たちが出会うことができたのも、安宇植(1932-2010)の尽力ありきのことなのだから、この大家の死去に際し、即座に哀悼の意を表すべきであった。しかしそのまま礼を失し、大震災も起こり、一季節を経ることとなってしまった。 ところが、新宿ピカデリーで映画を見る前に、三越上階のジュンク堂で立ち読みした際、韓国文化財庁長の兪弘濬(ユ・ホンジュン)という人が書いた『書聖・金正喜評伝』(草風館)が目に飛び込んできた。安宇植晩年の訳業である。パラパラとめくり、この本がいかに生き生きとした筆致をつらねているかを思い知り、ようやく購入。読了したいま、私は心の中に、ひとすじの清流が流れるのを感じている。このような好著を、ずっとアマゾンの〈ほしい物リスト〉に格納したまま読まずにいた愚を、私は悔いずにはいられない。 本書でその生涯が論じ尽くされている金正喜(キム・ジョンギ 1786-1857)という人物は、李氏朝鮮最高の書芸家で、「秋史」「阮堂」などと号した。朝廷の中枢にまで出世した政治家であるが、書のほか、詩・画・文・儒・仏・金石にも長けた。書家としては、楷・行・草・隷・篆のすべての書体に通じ、とくに隷書の到達点においては、清国や日本にもその名を轟かせ、遠く北京や江戸からも、その書を求める人が後を絶たなかった。「字が詩であり、詩が絵である」という「秋史体」を完成させている。 私は以前、ソウルの国立中央博物館へ遊びに行った折、《秋史 金正喜 學藝》展の会期に間に合わなかったことを、地団駄踏んで悔いたことがあったが、その代わりに、厚さ4cmに達する豪華な大判カタログを、真夏の蒸し暑いソウルをかついで帰ってきたものだ。後にも先にも、金正喜のあれほど大規模な展覧会は催されていない。 私は、金正喜という才能は、小国に付きものの事大主義が生んだ産物であると思っている。しばしば、芸術や学術の世界では、本場や大国よりもむしろ、辺境や、模倣的な環境で、真の才人が生まれるケースがあるのだ。フランスの首都パリで、アメリカ以上にアメリカ映画についての鑑識眼、批評眼が花開いたのは、やはり事大主義のなせる業だったのではないか。金正喜が書芸と金石学において実現したことを日本に当てはめるなら、小津安二郎がハリウッド映画との係わりにおいて、そして雪舟が中国山水画との係わりにおいて実現したことと同じたぐいのものなのだ、と本書を読み終え、改めて思い至った。 安宇植が本書の翻訳を通じて、私たち読者に届けたかったことは、もっと高潔な思想だったと推測できるが、あいにく受け手の意識というものはいつの世も、送り手の思い通りとはならない。金正喜、それから金史良、安宇植については、またいつの日か、もう少し実のある見識を書き残しておきたいものだ。
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