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一者の賦
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一者の賦

沢井繁男(著者)

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一者の賦

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商品詳細

内容紹介
販売会社/発売会社 未知谷/
発売年月日 2004/10/25
JAN 9784896421118

一者の賦

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2013/03/09

ああ、この人も今はない京都書院の二階に並んだ書籍の前で長い時間を過ごしたんだな、と懐かしくなった。登場人物が学生時代下宿していた京都の部屋に残された書棚の中身が、我が家の書棚の最も古い部分に似ているからだ。後に新興宗教の教祖になるのだから、ルドルフ・シュタイナーの『神智学』は分か...

ああ、この人も今はない京都書院の二階に並んだ書籍の前で長い時間を過ごしたんだな、と懐かしくなった。登場人物が学生時代下宿していた京都の部屋に残された書棚の中身が、我が家の書棚の最も古い部分に似ているからだ。後に新興宗教の教祖になるのだから、ルドルフ・シュタイナーの『神智学』は分かるが、稲垣足穂、夢野久作と続くのは、いかにも奇異だ。著者も、当時降って湧いたように起こった幻想怪奇文学ブームの洗礼を受けたひとりに違いない。河原町にあった店はその種の本を切らせることがなかった。 澁澤龍彦という水先案内人を得て、博物誌やら錬金術という、それまでは一部好古の士にしか知られていなかったヨーロッパ思想の古層のようなものに眼が向けられ、堰を切ったように斯道の先達たちの作品が復刊されたのが、著者がイタリア・ルネサンスを専攻し京大大学院に学んでいた丁度その当時である。多感な時代に影響を受けた書物というのは忘れがたいものだ。 小説の筋はシンプルなものだ。北海道に本部を置く新興宗教の教祖が失踪した。教祖とその妻、それに弟の三人で経営している小さい教団である。信者も増えつつあった時で、失踪の原因が分からない上、教祖不在が長引けば運営が難しい。手がかりを得られなかった義弟に代わり、妻が教祖が大学時代に住んでいた京都に出向き、夫の居場所を探る。そして、最後はイタリアに飛び、失踪に至る原因を究明するというのがそのあらすじである。 教祖と呼ばれる男は最後まで姿を現すことがない。友人や恩師、家族から見た男の像が章が変わるたびに明らかにされてゆく。そこに浮かび上がってくるのは、求道的な資質を持つ青年が、金儲けの手段と考えて教団を作りながら、しだいに信仰というものの深みにはまりこんで行き、二進も三進もいかなくなり、失踪を契機に本来の信仰を問い直し、それを信仰告白の形で表現することで自己実現を図ろうとする姿だ。 男の考えは生で語られることはない。それは、小説の中に仕込まれた小説、メタ・フィクションという形で読者に示される。教祖が学生時代に書いた『太陽と惑星に寄せる賦』という詩篇めいた作品や、海外の民俗学者の書いた『愚者の石』という書物を登場させ、さらにまたその中にD・H・ロレンス作といわれる手記をそのまま引用してみせるという、手の込んだ構成である。未完であった学生時代の作品を完成させたのが、最後の場面で読まれることになる『金属の詩』。占星術や錬金術と民間信仰をないまぜにした寓話とも読めるし、一種の信仰告白とも読める。 高橋和巳を思わせる佶屈な文章が一途にものを思いつめる男の頑なな性向を反映し、京都という観光地を選びながら、荒神口や妙心寺道といった渋いロケーションの選択が作品にリアルさを与えている。反面、ローマにおけるそれは、トレヴィの泉やパンテオンという観光地であるのが少し残念。主人公の妻が投宿するホテルが映画『終着駅』の舞台であるテルミニ駅付近というのが、京都の雰囲気に近いか。魔術や錬金術という日本に馴染みにくい話題を新興宗教とからませることで、かなり強引に小説化し、専門知識を生かして偽書を創造するなど、「ルネサンスの知と魔術」に詳しい著者でなくては書けなかった作品と言えよう。

Posted by ブクログ

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