舞台衣裳の仕事

加納豊美(著者)

• 販売会社／発売会社: カモミール社/
• 発売年月日: 2004/06/18
• JAN: 9784907775308

商品レビュー

2010/07/21

寒冷な地域では、保温機能が求められます。ヨーロッパで生まれた衣服のアイデアを見るとよく分かります。保温効果を高めるために布地で身体を立体的に包み込む方法を追求した結果、曲線を多用する裁断が生み出されました。洋装の歴史は布地を立体的に繋ぎ合わせるための工夫の連続です。

高温多湿な地域では、放熱、通気機能が必要です。東アジアで生まれた衣服のアイデアを見ると良くわかります。
布地が身体に密着しない方法として、直線だけの裁断があげられます。

一日の気温差が激しく、乾燥する地域では自在に形を変えられる一枚布、無裁断、無縫製の衣服が生まれています。

洋服は個々にサイズがあり、和服はフリーサイズです。
身体に対するフィット感が違うので、性的魅力に対する感じ方の違いが生まれます。和服のあいまいな身体のラインは想像力をかきたてます。自分の身体や動作を着物に添わせていくことで、和服はかっこよくなる。事象に敵対しないで、自らが寄り添っていく東洋の美学や文明の中に和服の形態もあるのです。

衣服→軍服→制服→象徴→帰属「印象を与える」

洋服の与える印象

1.場所に関する想像　国や地域　室内　屋外
2.風土に関する想像　暑い　寒い　乾燥している
3.季候に関する想像　季節　天候
4.経済状況に関する想像　富裕　貧困
5.社会体制に関する想像　個人意志の尊重　体制意志優先
6.宗教に関する想像　戒律の存在
7.目的に関する想像　ハレの日　ケの日　社会的行事　個人の日常
8.社会的地位に関する想像　職種　ポジション
9.時に関する想像　時代　時間帯　推移
10.内面に関する想像　性格　趣味　生き方　感覚　感情

舞台衣裳は「劇装」といいます。
シェイクスピア　チェーホフ　ブレビト

考証と表現はイコールではありません。
表現は事象を再現し、知識を並べることではありません。
何を事実として受け止めるのかが大問題です。知識として得たことの本質をつかむことからはじまります。
どこが表現に使えて、どこを捨てるべきかは「コンセプト」と相談すれば見えてきます。

「衣服」は饒舌です。「衣服」「衣裳」として表現に使うとき、作り手が衣服に関して無関心や無知や無防備なままでいると、意図しない伝えたくない情報が伝わる。
コンセプトに照らして、強調したい情報と省略したい情報、あるいは暗示したい情報を見極めなくてはなりません。「衣服」には情報が内包されているので、その記号性を表現に使うことが出来るわけですが、どう使うのかはコンセプトによるのです。
特性の時代や地域の印象を明確に伝達することが、必要ならその特徴を、逆に時代や地域を特定されないことが必要なら、徹底的にしらべたうえでその特徴をデザインに持ち込まなければいい。

一つ一つの場面が「絵」として成り立つだけでなく、全ての場面が「絵」に成るように考えるのです。

「色彩」「形（シルエット）」「素材」もそれぞれ、
それ自体に表現力があります。

ボタンのかけかた、洋服のサイズの合わなさぐあい
一つでも、人物の印象を左右することができます。
洋服の立体的になった衣服は身体にフィットします。
身体のラインを直接的に訴えるのが西洋のセクシーです。
あくまで、自分にあわせて相手を変えていこうとする西洋の合理性のなかに洋服もあるのです。