国民の文明史

中西輝政(著者), 新しい歴史教科書をつくる会(編者)

• 販売会社／発売会社: 産経新聞ニュースサービス/扶桑社
• 発売年月日: 2003/12/20
• JAN: 9784594042752

商品レビュー

2014/05/12

日本は一国一文明という、世界でも特殊な歴史を有しているという観点から、日本国民のための日本文明史を分かりやすく語った本です。

国家という枠組みで歴史を語ろうとすると、近代的な国家の枠組みを近代以前に恣意的に当てはめているという批判が必ず出てきます。こうした立場から、日本という枠組みを外して日本の歴史を語ろうとする試みもあるようですが、これに対して「一国一文明」という観点から日本の歴史の一貫性を擁護する本書の枠組みは、興味深く思えました。また、極度に実証的な歴史学によっては見えてこない、文明の大きな流れを把握する「文明史」という観点の重要性も、よく理解できます。

ただ、文明史という大きな枠組みから歴史を語るばあい、イデオロギー的な主張が際限なく混入してしまうのは避けられないのではないかという危惧もあるはずですが、そうした危険性に対して本書はあまりにも無自覚的であるように感じました。また、歴史的事実であるかどうかが、控えめに言っても係争中であるような事柄を、すでに確定しているように語るのは、フェアではありません。

著者はイギリス史、文明史の優れた研究者ですが、本書はやや勇み足が多いように感じました。

2013/08/24

「新しい歴史教科書をつくる会」メンバーとしての著者の面目躍如たる本であり、合い入れない部分は感じましたが、ユニークな観点から歴史を見るという点で興味深い本でした。今は文明史的な危機の認識が必要だとの主張です。実に462㌻に及ぶかなりの大部であり、流石に読むのに時間がかかりました。文明史は普通の歴史とどのように違うのか。トインビー、ブルクハルト、シュペングラーなどの著作はいずれも歴史の終末に対する危機感から出たものですが、著者によればハンチントンの「文明の衝突」もそれに匹敵する本だとのこと。恐らくこの本もその仲間入りを意識して書いたものではないかと想像します。また日本文明は世界７大文明として、１国で１文明を形成する稀有な文明だとのこと。従って、日本史の各時代を大陸とは個別の独立した文明史という観点から描くやり方は、アジアと一体化した歴史を強調する網野善彦氏らとは逆の立場で読ませるところがあります。ただ「つくる会」らしく、やや議論が乱暴であるかのような気がします。日本史の各場面を変化を嫌う縄文的・瞬発直応の弥生的だと意味づけていくところはややこじつけに聞こえますし、また特に中国の今後の動向の予測に関する書き方がそう思いました。日本が強い国でないといけない、という著者の強い意思は強烈であり、中曽根元首相が小泉首相に対して「確固たる国家観」を持っていないと批判するスタンスが正に著者の主張と一致していると思います。面白いのは２等兵はロシア、下士官は日本、中級将校はドイツ、将軍は米国、そして英国は政治家が優秀だとの話。国民性を現わしているのでしょうが、確かにそういう面はありそうです。

2012/04/29

日本の歴史における縄文と弥生の精神性の原理がどう働いていたかの考察。歴史を動かす根本要因を精神性に置く所が自分の歴史観との違いか。