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猿飛佐助からハイデガーへ グーテンベルクの森
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猿飛佐助からハイデガーへ グーテンベルクの森

木田元(著者)

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猿飛佐助からハイデガーへ グーテンベルクの森

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商品詳細

内容紹介
販売会社/発売会社 岩波書店/
発売年月日 2003/09/26
JAN 9784000269810

猿飛佐助からハイデガーへ

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2013/03/10

著者はハイデガー研究で知られる著名な哲学者。 書名の由来がふるっている。同窓会で二十年ぶりにあった友人に仕事を訊かれ「大学の教師」と答えると、何を教えているのかと訊く。「哲学」と答えると、友人、うっと息を呑み、「そういえばおまえ、子どもの頃から忍術が好きだったよな」と宣ったという...

著者はハイデガー研究で知られる著名な哲学者。 書名の由来がふるっている。同窓会で二十年ぶりにあった友人に仕事を訊かれ「大学の教師」と答えると、何を教えているのかと訊く。「哲学」と答えると、友人、うっと息を呑み、「そういえばおまえ、子どもの頃から忍術が好きだったよな」と宣ったという。それを思い出して題名にしたのだと。 「忍術」と「哲学」、どちらも普通の人生を歩いている人にとっては、無用の存在である。しかし、「無用の用」という言葉もある。忍術は目くらましであり、存在し得ないものを術によってさも存在しているように見せるもの。著者によれば、哲学とは、幾何学でいう補助線のようなものだそうだ。曰く「補助線は与えられた図形のうちに現実に存在するわけではなく、虚構的なものであるが、それが引かれることによって、その図形の隠された構造が浮かび上がってくる。哲学も、同じような意味で、世界や社会や歴史の外に引かれる補助線のようなものではないのか」と。 つまり、著者にとっては猿飛佐助の忍術も、ハイデガーの難解きわまりない哲学も、隠されていて見えない世界を開くための「補助線」なのだ。そして、その意味では、猿飛佐助からハイデガーに至るまでの比喩でなく読破した万巻の書は、少年小説や推理小説といった娯楽的な読書も、芭蕉や朔太郎の詩も、キルケゴールやドストエフスキーのように、青年期特有の求道的な読書も、サルトルやメルロ=ポンティのような哲学書もまた著者にとって世界を開くための「補助線」だったのだ。 子ども時代の腕白ぶりや闇屋時代の金儲けの話を読むと、著者が並はずれたバイタリティを持った人物であることがよく分かる。潜在的なエネルギーを持ちながら、家族の生活を支えるために意に染まぬ生活をせざるを得なかった戦後すぐの時代は、さぞ苦しかったことだろう。父親が満州から帰国することで、生活の苦労はなくなったが形而上の飢えは癒されなかった。ドストエフスキーやキルケゴールにのめり込んだのは、世界を欲しながら、世界を見つけ出すことのできない絶望が二人に共通してあったからだ。 そして、そのいわば実人生上の問題を解決するために引かれた補助線がハイデガーだった。戦後の物のない時代に大学生活を送った著者は、ハイデガーを読むために、図書館から借りた原書を講義に必要な分ずつノートに筆写し、辞書と首っ引きで読んでいったという。翻訳された本が簡単に手に入らなかったからこそ、著者は一年一カ国語という驚異的な速さで、次々と外国語をマスターできた。推理小説をはじめ膨大な読書を通じて培った力に付け加え、原書が読める力を得たことで、ハイデガーという難解な哲学者について、難解さを有り難がっていた哲学界の潮流とは異なるところで、『存在と時間』という問題作の真の意味を探り当てることができたのだ。 ドストエフスキーもハイデガーも、今の時代には、あまりに重くて暗過ぎるかも知れない。原書もネットで簡単に入手できる。直訳でいいならコンピュータが翻訳してくれる時代である。そんなお手軽な時代に、著者の苦労話はいかにもそぐわない。しかし、読後、感じるこの満足感はいったい何だろう。人との出会い、読書の愉しみ、勉強の実感、どれもコンピュータやインターネットが与えてくれるものとは現実感が格段にちがう。 苦労話と書いたが、著者にその意識はない。ハイデガーを引用しつつ著者は言う。「我々は過去から現在へ、そして未来へと直線的な時間の流れを流れ下っているわけではなく、おかしな言い方だが、過去と現在と未来とにまたがって、それらを同時に生きているのではなかろうか。絶望というのも、我々が時間性を生きる生き方の一種の乱れのように思われる。」こういう位置から眺めるなら、終戦後の悪戦苦闘の時代もまた、別様の感慨を持って受けとめられよう。 適切な補助線を引いて見る時、人間とは実に豊穣な時間の流れの中を生きていると言わねばなるまい。隠された世界を見つけるための補助線、是非見つけたいとは思うものの、ネットで情報を得るように簡単にはいかないこともたしかだ。

Posted by ブクログ

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