鉄の花 町工場短編小説集
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鉄の花 町工場短編小説集

小関智弘(著者)

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鉄の花 町工場短編小説集

定価 ¥1,540

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商品詳細

内容紹介 内容:天井の車輪. 新参者. 淘げ屋. ことば. ばっけの客. 二度咲き
販売会社/発売会社 小学館/
発売年月日 2003/10/02
JAN 9784093874731

鉄の花

¥550

商品レビュー

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2013/03/10

読み終えて表紙を閉じると、光を受けて輝く切削屑(キリコ)の表面に浮かぶ磨かれた金属の光沢と工場の油のにおいが懐かしく甦った。父は、小さな町工場で旋盤工をしていた。小さな頃、一度だけ、父の働いている所を見たことがある。日傘をさした母につれられていたのだから、夏の盛りだったにちがいな...

読み終えて表紙を閉じると、光を受けて輝く切削屑(キリコ)の表面に浮かぶ磨かれた金属の光沢と工場の油のにおいが懐かしく甦った。父は、小さな町工場で旋盤工をしていた。小さな頃、一度だけ、父の働いている所を見たことがある。日傘をさした母につれられていたのだから、夏の盛りだったにちがいないが、工場の中は暗く、仲間に呼ばれて顔を出した父の顔も、家で見るそれとはちがって、機械油に汚れて黒ずんで見えた。しかし、表情や身のこなしは精悍で、油に汚れた服装にもかかわらず、家にいるときよりも若く見えたのを覚えている。 『鉄の花』には「町工場短編小説集」という副題がついている。全六篇のどれもが町工場で働く人を主人公に据えて書かれている。著者の小関智弘氏自身が旋盤工として働きながらずっと執筆活動を続けてきた人である。町工場で働く人の技術を紹介したルポルタージュを読んで、その文章と、職人たちに注ぐ視線の確かさに注目していた。その小関さんの書く小説だから、読む前から楽しみにしていたのだが、予想以上に堪能させてもらった。 高橋和巳の『我が心は石にあらず』には、小説の中にマイクロメーターの図が載っていると、友人が笑って教えてくれた記憶がある。恋愛も出てくる小説と工場の機械というのは、今ひとつ相性が良くないような気がしたからだろう。ところが、どうして、ここに書かれた旋盤やフライス盤は鉄光りのする硬質な輝きが重厚な存在感を示して小説世界を支えている。作中の主人公は、どの男もまるで機械に恋をしているように、機械と心を通わせている。それは、文中の「特需」という言葉からうかがえる戦後の頃から、イラク戦争についての言及から分かる近作まで、主人公の年が、見習工から五十をすぎる年齢に変わっても、まるで、人間より機械の方が信じられるというように、見事に揺るがない。 定盤にアタリをつける金型職人に、父を亡くした若い見習工が憧れにも似た思慕を寄せる姿をさらりと掬いとってみせた「天井の車輪」。旋盤に使う「バイトの刃先は、鉄を削っている間は鉄に触っちゃいない」。鉈が薪を切るのでなく、鈍角に研がれた刃の腹の部分で割っているように、旋盤のバイトも実は鉄を割っているのだという。高速顕微鏡でもなくては見られない世界だ。しかし、見えないが、確かにあるものを信じることができなければ、人を愛することもできない。それに気づいたとき、男は心を決めた。工場の事務員をめぐる男二人の心のやり取りを淡々と描く「新参者」。 百分の一ミリの精度を要求される旋盤の仕事では、名指しの仕事もまれではない。それを言われた通りに仕上げて納めたときの満足感は、他に代えがたいものがある。熟練工の誇りだ。しかし、その技術が時代遅れになる時が来る。コンピュータ制御の旋盤が、男たちに代わってその仕事を果たす時代である。こんな時代では、町工場の熟練工を描く小説は難しかろうと思ったが、意外にコンピュータ導入後の町工場の世界も描かれている。 コンピュータ時代についていけなくなった熟練工に代わって就職できそうな失業中の男が、熟練工の実力に触れ、自分は身を引く「ことば」。自分の作ったコンピュータ制御の旋盤を買ってくれた町工場の三十年にわたる盛衰を描く「二度咲き」。コンピュータ制御の時代になっても、男たちは機械への愛着を失わない。ただ、かつてはすべてを手が受け持つことができた。コンピュータにはハンドルを回す手でなく、「ことば」でこちらの思いを伝えなくてはならない。その分、男と機械の間には距離が生じた。若い工員が、熟練工をまぶしく見つめる視線に込められた熱い思いのようなものは喪われ、小説の後味にも幾分か苦いものが混じるようになった。 他に、川の中から金気の物を探し出す商売のことを書いた「淘(よな)げ屋」。坂の下にある居酒屋に集まる人々の人生の哀歓を輪舞(ロンド)形式で綴った「ばっけの客」を含む。どれも、その世界ならではのことばと人生にあふれている。特に新しくもなく、目立つようなものは何もない。が、使い込まれた小説技法と、無駄口を利かぬ語り口に乗って、一気に読まされてしまう。最近読むものがなくなったと嘆く、人生に疲れを感じはじめた世代におすすめしたい。

Posted by ブクログ

2012/12/16

「鉄の花」小関智広 町工場短編小説集。鉄黒。 職工のリアルな情景が、美しくも冷徹に描き出されていて、佳作。 町工場は下町の職人工芸とは違う。工作機械と向き合う真剣さと、周りの人達との人間関係の対比が生々しく。 僕自身は、「二度咲き」の水越さんのような仕事をしているので、共感し...

「鉄の花」小関智広 町工場短編小説集。鉄黒。 職工のリアルな情景が、美しくも冷徹に描き出されていて、佳作。 町工場は下町の職人工芸とは違う。工作機械と向き合う真剣さと、周りの人達との人間関係の対比が生々しく。 僕自身は、「二度咲き」の水越さんのような仕事をしているので、共感しました。 "北原は、水越が次にどんな工具を必要とするかを素早く読み取っては、よどみなくそれを手渡した。開腹手術をするときの、医者と助手を務める看護婦のように、呼吸が合った。若いときに雑用をたっぷりとやってきた者だけができる芸当だ、" 本当にそう。言い得てニヤリ、してしまう。 細部のディティールが、本当に機械を触ってた人でないと分からないだろうことがよく分かる。 プロジェクトXよりも地べたに着いて、なお文学的な匂いのする良い一冊です。(4)

Posted by ブクログ

2012/03/06

町工場にまつわる短編小説集。著者は旋盤工として働きながら執筆活動を行ってきた。職人の経験が随所に文章に染み渡っている。機械の扱う人の魂の襞を垣間見せてくれている。小説というのは、このような所に妙味があると思わせてくれる作品集。町工場の匂いを醸し出している。

Posted by ブクログ

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