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友と書物と 大人の本棚
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商品詳細
内容紹介 | |
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販売会社/発売会社 | みすず書房 |
発売年月日 | 2002/06/10 |
JAN | 9784622048299 |
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友と書物と
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川上弘美が翻訳小説について知りたかったら「訳者あとがきを」読むのが一番という意味のことを書評に書いていたがまったくその通りで清水徹が吉田の『交友録』『書架記』などから十三編を選んで編んだこの本の場合も巻末に附された「時間を注ぐ」という編者の解説を読めば編者の意図も作者についてもよ...
川上弘美が翻訳小説について知りたかったら「訳者あとがきを」読むのが一番という意味のことを書評に書いていたがまったくその通りで清水徹が吉田の『交友録』『書架記』などから十三編を選んで編んだこの本の場合も巻末に附された「時間を注ぐ」という編者の解説を読めば編者の意図も作者についてもよくわかるようになっている。しかしまあそれはそれとして読者は自分の好きな作家の書物を楽しめばいいのだ。 楽しんで読むとは言ったが楽に読むのとは意味がちがい字こそ新字に代えているものの旧仮名遣いで書かれた吉田健一の文章は御世辞にも読みやすいとは言い難いのだがもちろん悪文というのではないのではじめは文の切れ目切れ目で行きつ戻りつを繰り返すが一旦呼吸をのみこめば後は独特の名文を楽しんでいる自分に気づくことになる。 たとえば「ディツキンソンと付き合つてゐると知識階級の人間といふものが実際にゐることが解つた。これは文字通りに知識がある人間、東洋風に言へば識者であつて一般の知的な水準を抜いてゐる以上はこと毎に、或は度重ねて一般に是認されてゐることに反する立場に置かれることは覚悟の前である人間を指す」が現在は「さうすると見せ掛けながら肝心の所で輿論に阿つて大向こうの喝采を博すことを狙う輩が殖え、寧ろその方が知識階級と考えられるに至つてゐる」というような指摘にはたと膝を打つのである。 書物を読む楽しみというのは一口には言えないのであって文章の持つ魅力もあればまた別のものもある。その人でなければ言うことのできない言葉や考え方に触れるというのもその一つで吉田茂を父に持ち母方の祖父は大久保利通の子牧野伸顕という家に生まれ長じて英国留学を果たした健一でなければ語れないこともある。家系を言うのではないが牧野伸顕のような一時代を生きた人物を「友達」と呼べる環境の中で育った吉田には他の者にない何かが育つのも自然だ。 荷風や漱石のような留学経験とも鴎外ともちがって吉田は肩肘も張らずいじけもせずにオックスフォードの碩学達から学んだようで吉田が何ものにも囚われることなく対象を正当に見、平等に対峙する態度はこの国の潮流の中ではいかにも異質に映るが逆に言えばこの国の主流をなす意見は吉田という「メートル原器」の前ではその歪みを露呈してしまうので吉田の書く物を読む時に感じる晴朗さや明晰さ公平さといった感じはついに我々の国が持てないで来たものである。 大衆文学を論じながら「我々は大衆文学と呼ばれてゐる作品を読んで文学の上での正気に返る」と言い「純文学」というジャンルを持つ我が国の倒錯性を暴くのもマルドリュス版「千夜一夜」の中から回教という宗教の持つ「たとへば平等といふことが理想の一種でなくて生活感情になつてこの社会に行き亙つてゐる」といった精神の価値を発見していくのも吉田の中に育った晴朗さや公平さのなせるわざであろうが、これらが「友と書物」を通して作者の中に培われていったとするなら人は何を読み誰を友とするかについて一度真剣に考えてみなければならないのではないか。
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