THE NIGHT BOOK

芳賀八恵(著者)

• 販売会社／発売会社: 8plus/
• 発売年月日: 2001/12/15
• JAN: 9784901675024

商品レビュー

2023/04/09

｢芳賀八恵｣さんは、以前読んだ｢絵本のつくりかた｣で知った、絵本と雑貨のインディーズレーベル、｢8plus｣を一人で起ち上げた方で、本書は、2001年発行の絵本となります。

まず表紙を見ると、シンプルに真っ暗な家が一件、ポツンとあり、捲った見返しには、銀箔を細かく散らしたような夜空の星たちが目映い美しさを放ち、その後の扉絵には、表紙の家に灯りが点っている、たったこれだけの変化ですが、まるで物語の始まりを告げているようなオシャレな構成に、思わずワクワクするものを感じます。

そして本編に入ると、文章の全く無い、絵だけの構成となり、決して情報量は多くないけれど、その分、ひとつひとつの絵を丁寧に見たくなって、最初の見開きでは、表紙から続く家に更に接近し、嬉しそうな顔でベッドに眠っている女の子が見えて、その屋根の上には、尻尾を緩く立てて伸びをしている黒猫が存在感充分ですし、色を変えるだけで周りの家々との遠近感を表している、シンプルさも印象的です。

次のページを捲ると、今度は家の中から見た視点で、女の子の隣には、男の子が(ウサギのぬいぐるみも隣で可愛く寄り添っている)眠っているのも確認できて、家の外では犬を散歩している人が影絵で描かれており、穏やかな夜の静寂さを、これまたオシャレに表現しております。

更に次のページを捲ってみると、今度は街路で、楽しそうに犬を散歩している男性が描かれてと・・・なるほど、これは前のページの絵の何かが、次のページに、バトンを渡すリレーの如く繫がっていくのだなと。

しかし、物語は単純ではなく、思いもかけぬ展開となってゆき、そのひとつひとつのアイデアには、ファンタジーやメルヘン、微笑ましい遊び心に、最後はちょっとミステリアスな終わり方と、まるで夜の様々な顔を表しているような展開が印象的でしたし、様々な視点から見せてくれる絵には、そこをフューチャーするのかといった意外性の妙もあって、芳賀さんの絵本にかける思いが覗えるようでした。

また、色使いは、藍色や灰色を中心とした、目にも優しい穏やかさで、夜の臨場感抜群でありながらも、所々効果的に使われている黄色が、良いアクセントとなっていて、更に、途中で現れるテーブルクロスにあの色を使っているセンスの良さには、静寂に包まれた夜に、ほんのりと華やかさと可愛らしさが宿ったようで、そのコントラストも鮮やかです。

そして、芳賀さんの絵柄について、あまり個性を出し過ぎない素朴な感じが、穏やかな夜にそっと寄り添っている印象で、とても心地好い空間を演出しており、それは、最後から最初にまた繫がっていくような物語ともリンクしているようで、思わず何度も立ち寄りたくなる、そんな素敵でオシャレな夜の絵本でした。