井辻朱美歌集

井辻朱美(著者)

• 内容紹介: 内容:地球追放. 水族. 吟遊詩人. コリオリの風. 風の千年伝説・抄
• 販売会社／発売会社: 沖積舎
• 発売年月日: 2001/02/01
• JAN: 9784806010890

商品レビュー

2024/07/25

井辻朱美の歌集ですね。
井辻朱美さん（1955年、東京生まれ）翻訳家、ファンタジー小説家、評論家、歌人。
井辻朱美の短歌は、ファンタジーとロマンのあふれる物語短歌です。私はファンタジーとロマンが大好きなので、嬉しい歌集ですね。
五つの歌集を一冊に纏めた、贅沢な歌集です。

　『地球追放』
　『水族』
　『吟遊詩人』
　『コリオリの風』
　『風の千年伝説・抄』

　以上の歌集が集められています。

　かすかなる野の匂ひいな海の匂ひ
　　　夜の風はわれの過去より湧ける

　しづやかに雨の埋むる惑星
　　　なべての歌はますぐに立ちつつ

　綠柱石のかがやき透り夜の船の
　　　漕ぎゆく彼方水上の花火よ

　しづかなる雲の渚に流れつき
　　　街うかびをりわれの蜃気楼（ミラージュ）

　雑踏の中にきみの名聴きとれば
　　　碧空の滴われに深しも

　くさぐさの花にあやされ眠る丘の
　　　胸なだらかに風は吹き分く

　ふれるよりたしかな愛のごとくにて
　　　噴水が空をさしつづけたり

　一本の樹木が水を吸い上げて
　　　空となるべく鳴りはじめたり

　草原の戦いの夢みていしが
　　　オルガンゆるく鳴りいづるなり

　青空の切手のごとき凧たちが
　　　河よりうらうらのぼりてゆけり

　音楽になる一歩手前のまっさらな
　　　風だけが吹いてゆける市街

　ふちのかけた帽子にリボンをまきつけて
　　橋からとおい旅に出ようよ

　井辻朱美さんは、「よく、どうして日常の事件を作品にしないのかときかれます。でも、わたしにとっては、『はるかなとき、とおいところ』が襲ってくるときの憧れや戦慄が、いちばん深くて真実な感情です。それらを見つめ、それらを統合していくことが、わたし自身のみなもとへむかう旅のような気がします。」
と、語られています。
　『はるかなとき、とおいところ』素敵な言葉です。物語を読む時の、私の選択の基準に添う想いがします。必ずしも、井辻朱美さんの想いとは一致しなくとも、底辺の深層は変わらないように感じます。
　この歌集は詩編のようでもあり、ファンタジーとロマンを美しく感じ取れるものでした。