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イタリア史(1)
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イタリア史(1)

フランチェスコグイッチァルディーニ(著者), 末吉孝州(訳者)

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商品詳細

内容紹介 内容:第1・2巻
販売会社/発売会社 太陽出版/
発売年月日 2001/03/10
JAN 9784884692223

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2013/03/11

南の日のあたる窓際にお気に入りの椅子を引き寄せ、二つ折りにした膝掛けを脚の上に置くと、おもむろに本を手に取った。よく晴れた休日の午前、たっぷりとした睡眠と軽い朝食の後、閑雅な一日を過ごすには、それに相応しい道連れがいる。フランチェスコ・グイッチァルディーニ。フィレンツェの名門に生...

南の日のあたる窓際にお気に入りの椅子を引き寄せ、二つ折りにした膝掛けを脚の上に置くと、おもむろに本を手に取った。よく晴れた休日の午前、たっぷりとした睡眠と軽い朝食の後、閑雅な一日を過ごすには、それに相応しい道連れがいる。フランチェスコ・グイッチァルディーニ。フィレンツェの名門に生まれ、法学博士、スペイン大使として、若くして政治の世界に入り、数々の要職に就きながら、晩年はトスカーナに隠棲、そこで精力的に執筆されたのが、全20巻に及ぶ『イタリア史』である。 「イタリア史」とは言いながら、舞台になるのは、彼が実際に体験した1492年から1534年に至る42年間の短い期間である。しかし、誰でも知っているように新大陸の発見に始まる大航海時代の幕開けは、中世的な都市国家の枠組みを破り、世界は激しく動き出そうとしていた。まさに疾風怒濤、動乱の時代。『イタリア史 Ⅰ』はその第1・2巻を扱っている。中心になっているのは、シャルル8世のイタリア侵入から帰国に至るまでの顛末である。 ミラノ大公国の簒奪を狙うロドヴィーコ・イル・モロの権謀術策が効を奏し、若いフランス国王シャルルを動かしたことから始まる、ローマ教皇、ヴェネツィア共和国、スペインを巻き込んでの戦争譚は、物語を読んでいるように面白い。面白さの一番の理由は、著者グイッチァルディーニの視線の皮肉さにある。外交の表舞台での活躍にも拘らず、晩年は失意の末の隠棲ということもあるのか、著者の人間観察眼はシニカルである。 臆病にして傲慢なロドヴィーコ・イル・モロをはじめとする諸侯の誰一人として、人格高潔にして高邁な君主というものは存在せず、大胆に見えるのは浅慮の所為であり、慎重というのは怯懦の別名、打算と野望、嫉妬と裏切りが渦巻く世界に善良な人間なんかいるものかといわんばかりにこれでもかこれでもかと辛辣な記述が続く様は圧巻である。 同じように政治の世界から隠遁し、城館の塔奥にこもって『エセー』を書いたモンテーニュが、「彼の好みがいくらか不徳に染まっていたのではないか、おそらく自分自身をもとにして他人を評価していたのではないかと心配になる」と書いている。グイッチァルディーニが、あらゆる人間の行為の「原因を何かの不徳な動機か利欲に帰していること」を評してのことだ。しかし、モンテーニュ自身がそうしているように、誰しも自分自身をもとにして他を評価するしかない。 自らの意志で権力闘争の世界から身を引いたモンテーニュとはちがい、グイッチァルディーニには、政治の世界に未練があった。「人間というのは善人より悪人の方が遥かに多いといえる。ことに財産や国家に関係してくるとなるとそうである」というグイッチァルディーニの言葉にはパワーポリティクスの世界に身を浸した者のみが知る実感が強く伝わってくる。 紙面に落ちていた日が翳った。ふと現実に立ち戻ってみれば、二度の世界大戦を経過してなお、世界は暴力と憎悪、飢餓と貧困から解放されるどころか、モンテーニュの頼りにする宗教や道徳、良心といったものに踊らされながら、いまだに混迷の中に呻吟しているではないか。グイッチァルディーニの書き付けた言葉の方が現実味を帯びて迫ってくるのを否定することは誰にもできまい。

Posted by ブクログ

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