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大江戸歌舞伎はこんなもの
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商品詳細
内容紹介 | |
---|---|
販売会社/発売会社 | 筑摩書房/ |
発売年月日 | 2001/10/05 |
JAN | 9784480873293 |
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大江戸歌舞伎はこんなもの
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歌舞伎座の正月狂言は『人情噺文七元結』だった。吉右衛門、玉三郎、染五郎と顔ぶれだけはにぎやかだったが、科白のまちがいがやたら耳について上出来とはいいかねる舞台だった。けれども、その前にこの本を読んでいたので、ははあん、なるほど、と思いながら楽しんでみることができた。それは、いった...
歌舞伎座の正月狂言は『人情噺文七元結』だった。吉右衛門、玉三郎、染五郎と顔ぶれだけはにぎやかだったが、科白のまちがいがやたら耳について上出来とはいいかねる舞台だった。けれども、その前にこの本を読んでいたので、ははあん、なるほど、と思いながら楽しんでみることができた。それは、いったいどういうことかといえば、舞台上に組まれた屋台の高さについてである。 歌舞伎の大道具はだいたい決まっている。室内なら舞台の上に台を置いてそれを床にする。この高さが、同じ室内なのに場面によってちがうのが歌舞伎である。たとえば、幕が開くと左官長兵衛の家だが、ここは平舞台で台がない。次の場面は吉原の角海老というお店で、ここには常足という高さ一尺四寸(約42㎝)の台が置かれる。この謎を解き明かすのが第一章「歌舞伎の定式」。 答えをいえば、常足の上で演じられるのが自分たち町人と同じ一般人のドラマであることを意味し、平舞台はそれより下層民の生活であることを意味している。それだけではない。床への上り下りという動作を省略したことで平舞台はクローズ・アップの効果を持ち、よりリアルな表現がそこに生まれる。常足という高さを定式として持ち、それを破棄することで新しい表現が可能になる。このことを橋本は次のように言う。 「ルールに関しては必要最小限度にとどめておく――そうじゃなかったら、ルールによってがんじがらめになります。がんじがらめを避けるようにして出来たルールは融通がきくんです。そして、そうしておいて、今度はそのルールを守るんです。」橋本の軸足がどこにおかれているのかがよく分かる言葉である。 日本の近代というもののあり方に疑問を持ちながら、それが解明できず悶々としていた橋本は、江戸歌舞伎の荒唐無稽とも自由奔放とも見えるものの中に、自分と重なる「中途半端な説明を拒絶する徹底したスタイリストぶり」を発見する。それは、京、大坂という上方が持っている文化に対抗して新興の江戸が激しく欲した「様式」というものが必然的にもたらした「構造」であった。 江戸の歌舞伎がなぜ町人でなく武士の戦いの世界を描くのかについて触れながら、江戸の武士と町人の関係は、大人と子どものそれだと言い切った後、橋本は次のように書いている。「日本の文化というのは、どうもこういう構造をどこかで持っているようで、平安期の女流文学とか当今の若者文化とか、みんな結局は囲い者の文化、被扶養者の文化ですね。江戸の町人文化も、自分の頭で全体を考えないという点で、まったくおんなじです。」 連載時『歌舞伎の図像学』というタイトルがつけられていたとおり、これは凡百の歌舞伎の解説書とは異なる。「なんだかよく分からない」江戸歌舞伎の構造を読み解くことで、我々の中に今も残る江戸町民的心性を解明していく野心的な試みを秘めた書である。なあんだ、古臭い歌舞伎についての解説かなどと高を括って通り過ぎたり読み飛ばしたりする読者はあっさりとうっちゃりを食らうことになる。 名優の芸談や義理人情の世界ばかりを解説してきたこれまでの歌舞伎本はいったい何だったのかと「パラダイムの変換」が起きること請け合い。今まで何度も見ていながら分からなかった、江戸時代の男伊達花川戸の助六が、鎌倉時代の曾我の五郎である理由も、これを読むと目からうろこ。歌舞伎愛好者にも、そうでない人にも是非一読をお薦めする。
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