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1931年にフランスにわたり、第二次世界大戦をはさんで27年間におよぶヨーロッパでの生活を送った著者の自伝的エッセイです。 ヨーロッパへ向かう船旅の途中でギザのピラミッドを見た著者は、「すべてのエジプト芸術を「感覚」し得たのは、ヨーロッパで他のものを見、感得した後においてであっ...
1931年にフランスにわたり、第二次世界大戦をはさんで27年間におよぶヨーロッパでの生活を送った著者の自伝的エッセイです。 ヨーロッパへ向かう船旅の途中でギザのピラミッドを見た著者は、「すべてのエジプト芸術を「感覚」し得たのは、ヨーロッパで他のものを見、感得した後においてであった」といいます。そのうえで、そこで把握したものが「感覚」に潜む本当の「抽象美」だと述べています。ヴォリンガーの『抽象と感情移入』を連想させる著者のこうした理解は、ヨーロッパにおける長い「時間」を経てようやく獲得されたものでした。 その「時間」は、ヨーロッパの伝統のなかではぐくまれた「普遍性」を著者が把握するまでにかかった「時間」であるように思われます。著者は、「志賀直哉はジイドと同格である」としながらも、「しかし志賀はジイドが行き着いたところまで至らずに、ある「放棄」を示した」と述べています。それは、志賀という個人の資質にもとづく限界ではありません。そうではなくて、ヨーロッパの伝統には、同一の「形」に到達した「普遍性」があるためだと著者は考えており、「私はフランスに生きて、その「歴史」を勉強し、……その体質である「精神伝統」に眼を向けた」と述べています。 こうした著者のヨーロッパ精神についての理解は、著者と交流のあった森有正のそれを思わせます。ただし森が、ヨーロッパの精神と向きあい「経験」という深みに到達するためにたいへんな格闘を演じたことにくらべると、著者の回想には森のような大立ち回りは見られず、パリの女たちとの交際をたのしんでいるように感じられます。これは、彫刻家である著者が、ロダンを通じて「形」としての「普遍性」を早く感得することができたからなのかもしれません。
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