水俣病裁判 人間の尊厳をかけて

水俣病被害者弁護団全国連絡会議(編者)

• 販売会社／発売会社: かもがわ出版/
• 発売年月日: 1997/09/10
• JAN: 9784876993376

商品レビュー

2022/11/24

　皆さんは,「水俣病」をご存知でしょうか? ほとんどの方は知っていると思います. 小学校・中学校の社会の授業中に習ったという方が多いのではないでしょうか. では, どの程度詳しく「水俣病」を知っていますか? 水俣病が発生した場所は? 初めて確認された年は? 原因物質を流出させてしまっていた企業の名前は? いかがでしょう? 恥ずかしながら, 水俣病について調べる以前の私は, ほとんど知りませんでした, 四大公害病のひとつという程度の認識しかありませんでした. 高校受験のために名前とざっくりとした背景知識を覚えていた. そんな感じです. しかしながら先日, 水俣病について詳しく調べる機会があり, その一環として本書を知りました. 本書に出会うまでは, ひたすらにググっていたのですが, 検索結果として表示される, 環境省 (当時は環境庁) の文章や裁判記録などから, 水俣病について大まかな知識を得ることはできたものの, 実際に水俣病で苦しんでいた患者さん達の姿・思い・葛藤は, はっきりとは見えませんでした. こういった文章化しづらい内容は, 行政や裁判所が公開しているある種「お役所的な」情報の裏に隠れてしまっているのでしょう. 一方で本書は, 上述の行政や裁判所から公開されている情報には記載されていない, 水俣病と闘った方々の生の声が細かく記述されていました. 水俣病の原因物質を流出させてしまっていた企業が, 地域の経済を担っている中で, 水俣病の被害を訴えるつらさ・葛藤など… これらの情報は公式の文章・記録からなかなか読み取れません. 本書は「水俣病被害者弁護団全国連絡会議」という組織が編集しているため, 水俣病の被害にあわれた方々の側にバイアスがかかってしまっているという一面も確かにあります. しかしながら, 行政や裁判所が公開している情報に加えて, 本書のような被害者の方々の意見も聞くことで, 真実により近づき, 問題解決の一歩となるのではないでしょうか?
　昨今, 環境問題が盛んに議論されていますが, 水俣病は我が国だけでなく, 世界的に見ても, 人間の経済活動が環境にあたえる影響をはじめて表面化させた大きな出来事です. 脱炭素・循環型社会などの議論を進めるのももちろん結構ですが, 今一度, 環境問題の原点に立ち返ってみるのもいかがでしょうか? 真に環境に配慮した経済活動とはどのようなものがあるのか. それを実現するには何が難しいのか. これらの問題を解決するための糸口になりうる一冊だと思います. ぜひご一読あれ.
（ラーニング・アドバイザー/環境 SASAGAWA）

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https://www.tulips.tsukuba.ac.jp/opac/volume/946570