大岡昇平全集(15) 評論 2-評論

大岡昇平(著者)

• 内容紹介: 内容:国語問題論議をめぐって ほか. 解説 「戦後作家」と呼ばれ続けた「昭和」の(万能)文学者 島弘之著. 解題
• 販売会社／発売会社: 筑摩書房
• 発売年月日: 1996/04/25
• JAN: 9784480702753

商品レビュー

2021/09/09

ネットの発達していなかった時代は、大岡昇平などのいわゆる知識人たちが、雑誌や新聞にもらっているスペースを使って、ツイッターみたいなやり取りをしてたんだな。ツールや規模が変わっても、やってることは変わらない。

小松川事件で大岡昇平が犯人を支援していたので、あの犯人について何か書いていないか調べてみたらこの本が出てきたので借りた。
「小松川事件の裁判によせて」と「李少年は果たして兇悪か」が大岡昇平が小松川事件に書いているエッセイだけれど、どちらもあまり出来がよろしくない。
これまで調べたことと併せて、事件のあらましは大まかに理解できたと思うので、その点で言えば読んでよかった。

一審では警察署での供述を強いられた事実と異なるものだと否定して、心神喪失を主張した。一審で死刑判決が出て、二審の準備をしている最中に、李珍宇は警察署での供述は正しく、一審での主張は嘘で、供述書が正しいと発言を翻した。これで減刑になんかなるわけがない。

李珍宇は二人の女性を強姦して殺害しただけではない。

新聞社や警察に電話をかけたり、被害者遺族に遺品を送り付けたりするのは被害者を死後も弄ぶような異常な行為で、大岡昇平がこのエッセイで言うような「自白の代替え行為」などではなく、間違った万能感に酔っていただけだ。大岡昇平は「李少年は兇悪か」を書いたとき正気だったの？

逮捕されてからも自供を二転三転させるのは、被害者と自分の犯した罪に向き合っていたらとてもできないことで、そんなことをする人のための情状酌量の余地なんかあるわけない。何が事実かいつまでも明らかにならないだけでなく、加害者が罪を認めないことは被害者遺族の苦しみを長引かせることだとわからなかったの？

李珍宇の無罪を主張している本が二冊も出版されているのだって、李珍宇が一審で供述書を否定したせいでしょ。減刑嘆願運動を起こした人たちは、事実関係をしっかり精査して、事実と異なることを主張する人は自分たちの運動から追い出すべきだった。
例えば、李珍宇は強姦はしていないと信じている人とか。マイノリティは無垢な社会の犠牲者などと主張する反差別運動など差別を無くす役に立つ？
何より被害を無かったことにされる遺族が気の毒よ。
李珍宇の無罪を主張する本も、一応読んでみるつもりでいるけど、読む前からクソ本だとわかるので気が重い。

大岡昇平は減刑嘆願運動に在日コリアンの参加が少ない理由を理解できないと書いているけど、こんな事件に在日コリアンだって理由だけで巻き込まれたらかなわんという以外の理由がなんかある？

私は死刑制度が間違っていると思うので、死刑を肯定したくはないけれど、李珍宇のしたことに最も重い量刑を科せられたのは、民族差別ではなく妥当な判決だ。

もしも強姦殺人を犯した後に、バカみたいな電話をしたり遺族を苦しめるような真似をしないで、即出頭して捜査に協力し、悔やみ反省する姿勢を見せていたら、死刑が無期懲役くらいにはなったんじゃないか。
死刑判決が出た他の少年犯罪と李珍宇の犯行を見比べてみても、李珍宇が異常に厳しい量刑を科せられたとも思えない。

それにしても、いつも大岡昇平と大江健三郎を混同する。読んだほうが良い気がしつつも、どっちもろくに読んだことがない。
このエッセイを読む限りでは、大岡昇平って読む価値あるのかなと思っちゃう。レイテ戦記書いた人だよね。大江健三郎は読みたい。

小松川事件より、サド裁判とかチャタレイ裁判の方が正直おもしろそうだ。悪徳の栄えを読もうかな。どれだけわいせつなんだろう笑