石の原野(4) 石の原野 トーベ・ヤンソン・コレクション4

トーベ・ヤンソン(著者), 冨原真弓(訳者)

• 内容紹介: 内容:作家のメモ.若き日の友情.石の原野
• 販売会社／発売会社: 筑摩書房
• 発売年月日: 1996/11/07
• JAN: 9784480770141

商品レビュー

2012/09/18

３編入り。ここまで何冊かトーベ・ヤンソンコレクションを読んでうっすら感じていたことが確信に変わった。
トーベ・ヤンソンはとがった作家だ。

2009/03/17

この本は３つの小説から成ります。
長編は『石の原野』。
短編は『作家のメモ』、『若き日の友情』の２つです。

以下、『石の原野』について。

新聞記者を辞めた男、ヨナスが主人公です。
彼は言葉に正確な、揺るぎない意味を求めます。
彼は酒を飲みます。（解説に依れば、それは文章を書く上での
閃きを人工的に造り出すための起爆剤替わりだそうです。）
彼は父としても夫としても家族と向き合いませんでした。

ヨナスは新聞社との契約でＹという新聞王の伝記に着手していました。
失敗を犯さなかったＹについて取材をしても、人間的なエピソード、
読者が求めるエピソードが見付かりません。
行き詰まったヨナスは遂にこの契約を反故にします。
自由になった！　ヨナスは快哉を叫びます。
しかし、ヨナスの中のＹは鎮まってはくれませんでした。
ヨナスは自分で人間らしいエピソードを捏造したＹの伝記を書こうとします。
それすらも行き詰まります。
ヨナスはＹを憎みました。
しかし、実際にはＹを通して見える自分を憎んでいたのでしょう。

Ｙと並んでこの作品の中で重要な位置を占めるのは父娘関係です。
ヨナスの上の娘カリンは冷めた関係を作っています。
下の娘マリアとも上手くいっているとは言えません。
或る時、おどおどして言葉を最後まで紡げないと思っていたマリアが爆発します。
それを機に、ヨナスは娘と向き合おうとしました。
彼はマリア宛に手紙を書こうとしましたが、上手く出来ません。
〈愛するマリアへ〉以降が続かないのです。

ラストでヨナスはＹの伝記（彼の自伝と言えるかもしれません）を石の原野に葬り、
また其処でマリアとの関係が少し前進します。
ヨナスは色々なものから解き放たれたのでしょう。

ヨナスは私から見れば駄目なおじさんといったところです。
ああはなりたくないとすら思います。
それでも多少感情移入出来てしまうのは、「悩む」という行為が万人に
共通しているからではないでしょうか。
彼の悩みが彼特有のものであったとしても。

この作品を通じて、著者がどれだけ言葉を大切に遣っているかが感じられました。