東京ホテル物語 改版 中公文庫

阿刀田高(著者)

• 販売会社／発売会社: 中央公論社
• 発売年月日: 1996/08/18
• JAN: 9784122026650

商品レビュー

2010/05/28

グランドホテル形式の…

[文庫ＯＦＦ]

グランドホテル形式の連作短編集。ホテルに関係する人間たちのドラマを描いている。

2010/05/28

東京のホテルにまつわ…

[文庫ＯＦＦ]

東京のホテルにまつわる男女をテーマにした短編集。短編でこれだけ上質なものは作者ならでは。

2009/07/27

阿刀田 高の【東京ホテル物語】を読んだ。

舞台は東京のシティホテル。客室、フロント、ロビー、レストラン、ティールーム、ドラッグストアな

ど、それぞれの空間ですれ違う男女の物語を描いた恋愛短編１２話。

やはり、阿刀田氏の文章は洗練されているというか、シンプルでなおかつ奥深く、読み心地がよい。

喉越しのよい清涼飲料水のように、すっきりと味わえる。

阿刀田氏が描く恋愛は、純愛あり、不倫ありと様々であるが、どれもが人間の、とくに男女の異性に対す

る心情や行動を鋭く分析していてなるほど、「あるあるそういう感情」と思わず頷いてしまう。

だが、さすがにそこは名だたる作家である。日常の恋愛をリアルに描くだけではなく、ありそうでないよ

うな実にユーモラスにとんだ設定で物語は構成されていくのだ。

とりわけ、このホテルという環境は、人間模様を描くのにはうってつけである。人が人にサービスをする

場所。そこには生活のすべてがある。働く、食べる、飲む、寝る。人間模様を描くのにこれほどの好条件

はない。

さて、本編であるがときにロマンチックであり、ときにミステリアスであり、１２編それぞれに違った楽

しみを覚える。

若かれし頃、危険な情事に身を焦がしたホテルに偶然泊まることになった主婦。おそらく当時と同じ部屋

であるだろう場所に泊まり、古い記憶を手繰り寄せる。ホテルに缶詰になったライターの男はホテルのス

ポーツジムで水泳をし、昔関係した女によく似た女性に遭遇する。ホテルのドラッグストアで働く未亡人

は、胃薬を求める新婚夫婦に自分の新婚時代を重ねあわせる。毎日、多種多様の人物を迎え入れる、フロ

ントの仕事やタクシーを管理するドアマンの仕事。感傷的な気分な客にさりげなく演出をする、バーラウ

ンジのバーテン。２４時間眠らないホテルの深夜、早朝、ホテルにありがちな心霊現象に出くわすホテル

の従業員。レストランで実に奇妙な体験をするツアーコンダクターの男。ホテルの一室で自分たちの死体

を眺める恋人たちの幽霊。共通するのはすべて、ホテルで常日頃行われているであろう、時間の中の物語

であるということだ。

人の出入りが多いところには、それだけの数の物語があるということである。

すべての物語を読み終えた後は、たまにはリッチなホテルに宿をとり、最上階のバーラウンジでグラスを

傾けて、眼下に広がる街並みのネオンを見下ろしたい気分にさせられる。それもまたひとつの物語。

今日も世界中のホテルで様々なロマンチックな物語が展開していることだろう。

お金も時間もなくてホテルなんて贅沢できない、そんなあなたは阿刀田支配人の素敵な空想ホテルでゆっ

くりしてみるのもいいかもしれませんよ。