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クロイツェル・ソナタ 浦川聡子句集
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商品詳細
内容紹介 | |
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販売会社/発売会社 | ふらんす堂/ |
発売年月日 | 1995/12/10 |
JAN | 9784894021457 |
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クロイツェル・ソナタ
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一本の音叉となりてただ冷ゆる 硬質な音の中に潜む熱と湿度。それは限られた字数の並びの為せるわざというよりは、やはり詠み人の性質なのだと思いたい。そこには共通した音があり、温度がある。句を立たせる陰と孤独がある。ぽつんと置かれているが故に広がる空間がある。イメージが膨らむ。 ...
一本の音叉となりてただ冷ゆる 硬質な音の中に潜む熱と湿度。それは限られた字数の並びの為せるわざというよりは、やはり詠み人の性質なのだと思いたい。そこには共通した音があり、温度がある。句を立たせる陰と孤独がある。ぽつんと置かれているが故に広がる空間がある。イメージが膨らむ。 永遠のリピート記号桜咲く 浦川聡子が何を正確には詠んでいるのかは不明だけれど、この句から、かつて男声合唱にエネルギーの大半を注ぎ込んでいた自分は一つのうたが思い浮かぶ。 はながちる はながちる ちるちるおちるまいおちるおちるまいおちる 光と影がいりまじり 雪よりも死よりもしずかにまいおちる 草野心平の「さくら散る」という詩である。旋律を歌うパート以外は終始「まいおちる/まいおちる」と5連符を歌い続ける。その歌を聴いての発句か、とも勘ぐりたくなってしまうのであるけれど、やはりそれは絶え間なくまいおちる桜の花びらを歌ったものだろう。その景色を、かたや「散る」と謳う詩人がいて、他方「咲く」と詠む俳人がいる。散る花びらを美しいと感じつつ、その健気さを読み取るように、咲く、と詠む人の気持ちには、秘めた熱情の裏返しの冷静さがあるように思えてならない。例えばそんな相反するものの存在はこんな句にも顕われているように思う。 寒き目をしてフルートに息入るる ここにある温度のコントラストには、艶めかしささえあるように見える。冷めた眼差しとは裏腹にある吐息の熱。そして冷えた管に吹き入れられた息は、たちまちに凝結して露となる。その熱が木管楽器を、そして演奏者を、染める。上気する音。音階は高みへと旋律を導きそれを聴くものの鼓動を早める。その音響的心理効果は錯覚を引き起こす。しかしその錯覚には、単に錯覚と呼んでしまうのは躊躇われるほどに余りにも真実味があり、演奏者を耽溺させる何かがある。そのことを浦川聡子は冷静に見つめている。例えば池田澄子の「じゃんけんに負けて蛍に生まれたの」には、そんな冷めた陶酔感のようなものはない。このアンビバレンツな印象こそ浦川聡子の特徴であるように思う。 ところで、十七文字の形式は自分には余りに制限が強過ぎて、そこに何かを押し込めようとすると言い足りなさが残ってしまうけれど、三十一文字に何かを収めようとする時、逆に音を「埋める」という思考が自分の中にあるとも感じている。それは何か無駄な饒舌であるようにも思い、この潔い形式に収め直してみたいともまた思いはするのだが、理が勝ち過ぎる性格が災いする。言い切るようにして言い切らない、そんな句に、嫉妬する。 櫂ひとつ置かれて月の涼しかり
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