ゲットー脱出 あるユダヤ人の生還

アブラムランクマン(著者), 大谷喜明(訳者), 大谷京子(訳者)

• 販売会社／発売会社: 三省堂/
• 発売年月日: 1994/07/01
• JAN: 9784385355696

商品レビュー

2016/02/27

道端で子供たちはタバコやマッチを売り、女性は自分の身体を売った。それも安い値段でだ。パン1かけらのために、何でも売った。売るものたない人は子供を立ち入り禁止のアーリア人地区にやり、パンを買わせた。それをゲットーに持ち帰って売り、多少のお金を稼ぐのだった。アーリア人地区に行くのはとても危険だった。戻ってこない子供もたくさんいた。親たちだって、それがどれほど危険なことか知っていた。しかし他にどうすれば良いのか。栄養失調で突き出したお腹をした我が子が、次第に衰弱して死んでいくのを黙ってみている方がいいと言うのか。飢えとの闘いに敗れ、家じゅうの物を糸くず一本、はては靴ひもまで食べつくして、静かに死を迎える人もいた。自分の財産に必死にしがみつき、ピン1本売ろうとせずに、自らの手で生命を縮めていく人もいた。戦争は烈しくなり、戦時中は物資が不足していたが、しかし壁の向こう側の情況は違っていた。確かに以前より厳しくはなったが、人々は飢えていなかった。これはユダヤ人を餓死させようという敵の政策なのだ。ヨーロッパからユダヤという害虫を駆除するための最初の作戦なのだ。そしてドイツ人はまだまだ十分と思っていなかった。ゲットー内の店では何も手に入らなかった。金は使い果たしてしまった。水道に水が再び流れ、渇きで死ぬことはなかったが、飢えは容赦なかった。ユダヤ人の死亡率は空襲の時よりもひどくなった 。