政治をするサル チンパンジーの権力と性 平凡社ライブラリー55

フランスドゥ・ヴァール(著者), 西田利貞(訳者)

• 販売会社／発売会社: 平凡社/
• 発売年月日: 1994/06/15
• JAN: 9784582760552

商品レビュー

2022/03/25

類人猿に対する見方が変わる本．

「猿は賢い」とよくいう．ただそう聞いた時，自分はサルが周囲の環境や道具をうまく使いこなして餌を取るような対環境・対モノへの知的能力を想起していた．しかし実際はそれだけではない．誰が敵で誰が味方か，群れの中で自分がどういう序列に位置していて誰とどう協力するか，といった社会的認知能力も高度に発達しているということを教えてくれる．

それには当然，他者を識別し，自分と他者Aだけでなく他者Aと他者Bの間にある関係性や，それを踏まえた上である振る舞いXによりもたらされる結果を予想する力など高度な認知力が問われる．

人間社会にも見られる「政治」は人間特有のものに非ず，その素質は太古から受け継いだ遺伝的遺産として存在していたんだということがわかる．

政治が生まれる理由は，どんなに個が強くても，複数体の下位個体の集団には勝てないため他者との協調が必要であることが肝じゃないかと思った．
（人間に核発射ボタンを与えちゃいけないのは同じ理屈が通りそう）

"動物の行動を研究し続けるということは、とどのつまり解釈するということであるが、解釈が間違っているかもしれないという感情には、絶えず悩まされるものだ"

ゲシュタルト知覚　全体>部分の総計

2013/07/08

私にとって、ミステリーにおける人物描写は重要だ。

優れた人物描写、少なくとも私が納得のいく人物描写があって、
はじめて、
昼なお暗い密林の行軍のような、
上に下に一回転とふりまわされるジェットコースターのような、
ミステリーの旅の一員となることができる。

この本はミステリーではない。
しかし、登場人物であるそれぞれのチンパンジーの際立つキャラクターはどうだろう。
そして、先の読めない人間、おっと、チンパンジー関係の展開。
それだけなら、ただのドラマかもしれないが、
人類のもつ行動原理の謎をとき明かすラストがあれば、
下手な警察小説や探偵小説よりも、ずっとミステリーだ。