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遅番記者 講談社文庫P800
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商品詳細
内容紹介 | |
---|---|
販売会社/発売会社 | 講談社/ |
発売年月日 | 1994/10/15 |
JAN | 9784061857902 |
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商品レビュー
3.5
2件のお客様レビュー
妻と娘が事故で死に、妻が残した日記で初めて妻の不倫を知り、しかもその相手が上司だったという知りたくない事実まで知ってしまい落ち込み悩む記者・・この小説はミステリー仕立ての体裁をとりながらも、中身はお大人の恋愛小説です。ってことで、私のようにミステリーを期待して読むと100%ガッカ...
妻と娘が事故で死に、妻が残した日記で初めて妻の不倫を知り、しかもその相手が上司だったという知りたくない事実まで知ってしまい落ち込み悩む記者・・この小説はミステリー仕立ての体裁をとりながらも、中身はお大人の恋愛小説です。ってことで、私のようにミステリーを期待して読むと100%ガッカリします。
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冒頭から一気に引き込まれた。 舞台は米国カンザス州の都市ウィチタ。やさぐれた中年の刑事が犯行現場へと向かう。一旦は途絶えたかにみえた猟奇的殺人が6年を経て再び繰り返された。いまだ未解決となっている経緯を振り返りつつ、私生活では離婚の危機を迎えているウィチタ警察警部ルーミスの行動と...
冒頭から一気に引き込まれた。 舞台は米国カンザス州の都市ウィチタ。やさぐれた中年の刑事が犯行現場へと向かう。一旦は途絶えたかにみえた猟奇的殺人が6年を経て再び繰り返された。いまだ未解決となっている経緯を振り返りつつ、私生活では離婚の危機を迎えているウィチタ警察警部ルーミスの行動と思念を追う。切断された死体の傍には、打ち捨てられたユリが5輪。犠牲となった女性は5人目。花の種類は都度変わり、1輪ずつ増えた。暗い記憶を呼び覚ます符牒。オフィスに戻ったルーミスに、殺しを嗅ぎ付けた地元の新聞社が密着取材を申し出る。旧知のサム・ホーンなら、と刑事は名を挙げて受諾した。場面は切り替わる。 墓標の前に立つ幼い男の子。少し離れた場でそれを見つめる父親は、1年前に事故で亡くした妻と娘、そしてたった一人残された息子に想いを馳せる。新聞記者ホーンは、愛する妻を失った後に、裏切られていたことを知った。「ミッド・アメリカン」紙の編集局長ルールは、上役であり、亡き妻クレアの浮気相手だった。鮮明に情事を書き記した日記。敏腕記者だったホーンは遅番へとシフトし、私怨を晴らす機会を待っていた。現在、ルールの相手となる同社女性記者のストッシュ・バビッキを利用して。ルーミスの捜査に同行したホーンは、やがて〝限界〟へと行き着く。 一方、仕事に情熱を傾けながらも上司との不倫の只中で、ストッシュは思い悩んでいた。実力を活かせず、煮え切らない記者生活。そんな中、漫然と流されていた日常に転機が訪れる。連続殺人事件を追うホーンのサポート。妻子を失い、心に深い傷を負った男は、過去に呪縛されていた。その情念、時に不可解な言動に向かう男の内面を知るほどに、ストッシュは無自覚なまま惹かれていく。 三人はひとつの事件で結び付き、互いに影響し合い、人生を変えることになる。 1993年発表作で、ジラード唯一の飜訳。ミステリの枠に収まらない上質の小説であり、忘れ難い読後感を残す秀作だ。ミステリに於いては〝ありふれた〟連続猟奇殺人を縦軸とするが、通常の展開をとらない。ホーン、ルーミス、ストッシュ。焦点をこの三人に絞り、今回の事件を経て、どのような道を歩むことになるかを丹念に描いていく。本作で最も優れた点、魅力もそこにある。生きづらさを抱えた男と女、その心の揺らぎを情感豊かに綴った心象風景が鮮やかで、詩情に溢れているのだ。何を思い、どう選択し、決断するか。それぞれのアプローチの仕方は繊細で堅実であるが故に、あとの劇的なシーンへと違和感なく流れていくのである。 事件の謎を解く鍵でもある街の寂れたバスターミナル。ホーンは孤独を噛み締めつつ、行き交う人々を幾日も見詰める。殺人者の犯行を辿り、異常な心理を探り、深層へと墜ちていく。両者は、いつしか重なり一体化、血の記憶は遂には幻視さながらとなる。追想は事件から亡き妻へ。怒りでもなく、哀しみでもなく、悔恨に苛まれ、毎夜悪夢にうなされる男。眼前の情景のみならず、ひとときの安息となる眠りの中にさえ、暗く悲しい幻影がまとわりついていた。事件が家庭崩壊へと繋がる一因となったことでは共通するホーンとルーミス。殺人事件に取り憑かれた男二人の間に立つストッシュのまなざし。人生の縮図であるかのようなターミナルへと偶然にも導かれた三人は、まもなく区切りを迎える。 静謐ながらも熱く、穏やかだが気高い筆致。本作は、さまざまな人生経験を積んだ大人にこそ読み応えのある作品だろう。逆に、過激な猟奇性や練り込んだ謎解きに刺激を求める読み手には、つまらない読み物だろう。実際、連続殺人の様相や真相などはサイコスリラーの定型に沿っているのだが、ジラードはあくまでも物語の一要素として割り切り、力を入れてはいない。それよりも、躍動的な新聞記者らの生態、彼らが体感した数奇な事件のあらまし、日常の中で一瞬にして目覚める不条理性を、リアリティ豊かに織り込んでいる。自らも新聞記者であった作者の社会を視る目、その冷徹な人生観が物語の強度を高めていると言っていい。 脆弱であるが故に殺人へと至る歪んだ人間の闇を抉り出して事件は解決する。けれども、本作のクライマックスはその後にある。なおも続く日常。終章の美しさ。儚き現実の厳しさに直面しながらも、幸福への道のりを確かめるホーンとストッシュ、そしてルーミス。心の揺れ。何がどう変わったのか。多くを語らずとも、三人の〝それから〟をエピローグで見事に暗示している。余韻は深く、心地良い。 ミステリは、まだまだ深い。そして、ジラードは心憎いほど巧い。
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