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禅仏教 根源的人間 同時代ライブラリー142

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商品詳細
内容紹介 | |
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販売会社/発売会社 | 岩波書店/ |
発売年月日 | 1993/03/15 |
JAN | 9784002601427 |
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禅仏教
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『禅仏教』は、哲学者・宗教学者の上田閑照が、禅の思想的本質を、特に言語と経験の関係という観点から探究した深い洞察に満ちた著作です。上田は、西洋哲学の訓練も受けた研究者として、東洋思想と西洋思想の双方を視野に入れながら、禅の核心に迫ろうとします。 まず、本書の中心的なテーマは「言葉...
『禅仏教』は、哲学者・宗教学者の上田閑照が、禅の思想的本質を、特に言語と経験の関係という観点から探究した深い洞察に満ちた著作です。上田は、西洋哲学の訓練も受けた研究者として、東洋思想と西洋思想の双方を視野に入れながら、禅の核心に迫ろうとします。 まず、本書の中心的なテーマは「言葉で言い表せないものをどう言い表すか」という逆説的な問題です。禅の伝統では「不立文字」(文字や言葉に頼らない)ということが強調されます。しかし同時に、禅は膨大な文献や言語表現を生み出してきました。この一見矛盾する事態の意味を、上田は丁寧に解きほぐしていきます。 例えば、禅問答を考えてみましょう。「拍手の音は両手で作られる。片手の音を聞かせよ」という有名な公案があります。この問いは、論理的には答えられません。しかし、この「答えられない」ということ自体が、私たちの通常の思考や言語の限界を示すものとして重要な意味を持つのです。上田は、このような禅独特の言語使用の意味を、現代の哲学的な文脈の中で解明しようとします。 本書で特に興味深いのは、「経験」についての考察です。私たちは普段、経験を「主体が対象を経験する」という図式で考えがちです。しかし禅の立場からすれば、真の経験とは、そのような主客の分裂以前の直接的な体験のことを指します。上田は、この「主客未分」の経験を、現象学的な観点からも分析していきます。 また、上田は「無」の概念についても独自の解釈を展開します。禅で語られる「無」は、単なる「存在しないこと」ではありません。それはむしろ、あらゆる存在を可能にする根源的な場所として理解されます。例えば、部屋の中の空間は、家具や物を置くことを可能にします。同様に、禅の「無」も、あらゆる存在や経験を可能にする開かれた場として捉えられるのです。 本書の重要な貢献の一つは、禅の思想を現代の哲学的文脈の中で読み直そうとする試みにあります。上田は、ハイデガーやメルロ=ポンティといった現代西洋哲学者の思想と禅との対話を試みています。それは単なる比較研究ではなく、現代において禅の思想がどのような意味を持ちうるかを探る試みとなっています。 上田の文体の特徴は、難解な概念を具体的な経験に即して説明しようとする姿勢にあります。例えば、「今、ここ」という経験の意味を考察する際、私たちの日常的な時間意識との関係から丁寧に説明を積み重ねていきます。それは、禅の思想を単なる神秘的な教えとしてではなく、私たちの具体的な生の経験に根ざしたものとして理解することを可能にします。 この本が現代において持つ意義は、技術化・情報化が進む社会の中で、人間の経験や存在の意味を根本から問い直す視座を提供している点にあります。私たちは情報や知識を蓄積することに熱心ですが、その前提となる経験そのものの本質については、あまり考えることがありません。上田の考察は、このような現代的な課題に対しても重要な示唆を与えてくれます。 禅の思想は一般に難解だと考えられていますが、本書は、その本質的な難しさを保持しながらも、現代の読者に向けて開かれた形で禅の思想を提示することに成功しています。それは単なる仏教学や宗教学の研究書にとどまらず、現代を生きる私たちの存在や経験の意味を問い直すための、重要な手がかりを提供してくれる著作といえるでしょう。
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