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最後の人 期待 忘却
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商品詳細
内容紹介 | |
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販売会社/発売会社 | 白水社/ |
発売年月日 | 1992/10/20 |
JAN | 9784560043042 |
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最後の人 期待 忘却
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『最後の人』 語ることによって寧ろ遠ざかるもの。虹のふもとの頼りなさ、とある詩人は書いた。追えば必ず遠ざかる、と。まさにそんな比喩が適切な文章が続く。一体何を求めて自分はこの書を手に取ったのだったか。しばらく前の(とは言えそれは何年も前のことではなく半年ほど前のこと)過去の自分...
『最後の人』 語ることによって寧ろ遠ざかるもの。虹のふもとの頼りなさ、とある詩人は書いた。追えば必ず遠ざかる、と。まさにそんな比喩が適切な文章が続く。一体何を求めて自分はこの書を手に取ったのだったか。しばらく前の(とは言えそれは何年も前のことではなく半年ほど前のこと)過去の自分自身の思考に、いつもながら訝しさを覚えて読み進める。モーリス・ブランショ。不思議な手触りのする作家。 『とはいえ、私たちは彼に抵抗していた、私たちはほとんどつねに彼に抵抗していた。そのことを思い続けたあまり、私はついには、私たちのまわりに、彼には乗り越えることのできない円環があったと信ずるにいたった』 読み進めて十頁ほどで、こんな文書に出会う。急にシナプスの繋がりによって頭の中に電気信号が駆け巡る。天啓のようなイメージが、はっきりと形作られる前の不完全なままで、思考を埋め尽くす。彼はイエス。父であり子であり聖霊である存在。そしてその系譜を「ぼく」もまた受け継ぐ者であるかのような記述。しかしそれは一瞬の心象に過ぎず、彼はすぐさま年老いた病人に矮小化し「ぼく」は心に病を持つ人々の一人へと退行する。 何処とも知れない閉じた場所に、灰色の影以上の存在ではない他人と、ぼく、そして、彼と彼女。彼とは誰か、彼女とは誰か。その問いに直接的な答えはなく、この作家に限って言えば意味は無いのだと翻訳家は解説する。しかし振り払っても振り払っても、彼には宗教的なニュアンスがつきまとう。 果たして此処はサナトリウムのような場所なのか。彼は死にかけていると描写され、彼女と自分もこの場所を去ることは許されていないかのよう。白過ぎる建物には同じような幾つもの扉が並び、そこには部屋番号が記されている。誰もが死にかけ、救いを求めている。それを唯一免れているかのように存在する彼。しかし自分は彼が、彼特有の苦しみに堪えていることを知っている。知っているからこそ、彼の眼差しを受け止めねばならぬ立場にあり、そのことで彼女との距離は遠ざかる。 『私たちの声は幾多の世界に幾多の世界を加えたほどの広やかさと力をそなえている、けれどもそれは沈黙したものでもある―中略―ほとんど聞き取れぬほどであっても、その声は私たちを揺り動かす。それはまるで儀式的ではあるけれども、それを聞くことはひとを不安ならしめる崇高な驚愕である』 ぼく/彼/彼女、という関係は、やがて、おまえとぼく、という関係に変容する。けれども、おまえ(Tu?)という親しみのこもった呼び掛けには、無言だけが返される。そして繰り返される「然り(ウイ)」。それはアーメンという唱和に似ている。何も語られないと言うのに、何に対してその言葉は繰り返されるのか。 『つねに逃れてゆくあの極度にとがってすさまじく遠い切っ先、おまえがそれによって、ゆっくりと、権威をもって、彼を忘却のなかに惹きつけ、押しもどす切っ先は?』 「わが神、わが神、どうして私を見捨てられたのですか」と問いながら、最後に「父よ、私の霊をあなたの手にまかせます」と言ったとされる者を、やはりここに二重露出させずにはいられない。
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