スエズ運河 朝日文庫

酒井伝六【著】

• 販売会社／発売会社: 朝日新聞社/
• 発売年月日: 1992/01/01
• JAN: 9784022606792

商品レビュー

2015/11/15

エジプトはナイルの賜物というならば、スエズはエジプトにとっての何であったのだろうか。1869年開通の運河について紀元前3000年から語り始めるという、政治・経済・地理的な話というよりも、スエズ運河にまつわるエジプト歴史本。

ここを船で横断できればどれだけの近道になるかということは、地図を見れば小学生にも理解できるが、運河を作成できるほどの技術力を獲得できる頃には、人類は争いのための力も大きく成長させずにはいられなかった。いや、地中海近辺では紀元前から数多くの戦争があったことを考えれば、大陸を横断するというその大きすぎる重要性は、いつの時代であっても争いの原因とならないわけがなかっただろう。

ふたつの世界大戦と数多くの中東戦争、果てはその中心地となったスエズ戦争まで。平時の重要さは常に戦時の弱点になり、常に戦火に巻き込まれてきた。

数えれば戦死者と経済効果の比較もできることだろうが、そんな数字も、そもそもの工事にあたって数万人が死亡したという事実を思うと目がくらむ。（本書では工事による死者数は12万となっているが、他の情報と比べるとこの数字は疑わしい。）
経済的にはサンクコストでも、そこに政治と宗教、そして人の血が関わると、考えなければいけない環境変数は膨大に膨れ上がる。大陸を渡る川を創るという偉業の価値が、これ以上損なわれないことを願う。

2012/08/17

(2002.03.30読了)(2001.12.02購入)
（「BOOK」データベースより）amazon
1869年の開通いらい、世界情勢の鍵を握る要所として注目を浴びているスエズ運河―。その起源ははるか古代エジプトにまでさかのぼる。ファラオの時代から現代まで、地中海と紅海を結ぶ運河を巡って繰り広げられた4000年の興亡を軸に、ジャーナリストの目で壮大な歴史の流れを描く。

☆酒井傳六さんの本(既読)
「ピグミーの世界」酒井傳六著、朝日新聞社、1973.03.24
「熱砂の文明９９の謎」酒井傳六著、産報、1977.06.20
「古代エジプトの謎」酒井傳六著、現代教養文庫、1980.10.30
「ピラミッド１０１の謎」酒井傳六著、文春文庫、1984.07.25
「古代女王ものがたり」酒井傳六著、文春文庫、1986.07.25