織田信長 朝日文庫

今井林太郎【著】

• 販売会社／発売会社: 朝日新聞社/
• 発売年月日: 1991/07/01
• JAN: 9784022606532

商品レビュー

2012/01/21

鎌倉・室町時代以来の武士階級の動きにこたえ、
従来の貴族・寺院の荘園を打ちこわし、武士に
よる完全な封建制度を確立した信長。新しい体
制を造るために、彼の意志に従わぬ者はあくま
で排除する実行力に富んだ人物信長を、史料的
裏付けとともに浮きぼりにする伝記研究。
　１　尾張半国の領主
　２　京都進出
　３　将軍義昭の動きと反信長戦線
　４　新しい封建秩序
　５　安土城の威容
　６　近畿の動揺と鎮圧
　７　雄図の挫折
　あとがき

著者は、東京大学国史科卒の神戸大学名誉教授。
文庫本は、平成３年の刊。カバー装丁は、愛知
県西加茂郡長興寺蔵の織田信長像。
単行本は、昭和４１年刊行ということで、現在
の説では、見直されている部分もあるが、骨格
部分はしっかりしており、古びていない。

時系列が前後し、内容が重複する箇所があり、
読みづらい部分もあるが、信長公記など史料を
用いている。
桶狭間の戦いについては、田楽狭間で奇襲攻撃
を行ったとしている。
長篠の戦いについては、「武田勢の得意とする
騎馬戦に備えて、陣の前方に木柵を設け、この
木柵に三千人の鉄砲隊を配置した。他方別働隊
をして鳶巣山にある武田勢を背後より襲って潰
走せしめ、これを合図に敵の本隊に戦を挑んだ。
」としており、鉄砲隊を３隊に分かれて１隊ず
つ交互に射撃したという、３段撃ち説をとって
いる。
田楽狭間での奇襲作戦や、鉄砲３段撃ちについ
ては、近年、見直しが進んでいる部分であり、
内容が古びているが、刊行年を考えるとやむを
得ないところであろう。別働隊による鳶巣山の
攻撃に触れているのが良い。
また、楽市楽座についても、信長が先進的だっ
たと単純に持ちあげるのではなく、ある種の座
商については、そのまま特権を残したと、リア
リストの面に言及されていて良い。
天才と称賛する訳ではなく、バランス良く、信
長の生涯が俯瞰出来て、おススメである。