西行 さすらいの歌人

井上靖【著】

• 販売会社／発売会社: 学習研究社/
• 発売年月日: 1991/06/20
• JAN: 9784051057466

商品レビュー

2013/01/09

(2013.01.09読了)(2013.01.07借入)
【平清盛関連】
西行を主人公とした小説かなと思って、借りてきたのですが、小説ではなくて、西行の和歌の現代語訳と時代背景の解説でした。和歌についている詞書も訳してあります。
掲載してある歌は、60余首です。
西行に関して確実に分かっていることは、あまりないらしいので、井上靖さんには、西行を小説で書くことはできなかった、ようです。
解説では、陸奥の旅については、奥州藤原氏について述べています。保元の乱や平治の乱のあたりでは、御自分の著書の「後白河院」から引用しています。
「西行－魂の旅路－」西澤美仁編、とは、選んでいる歌が一部重複しますが、大部分は違うので、合わせて読んでもいいのではないでしょうか。
特に、信西入道の妻である二位の局(藤原朝子)のための哀悼歌は、目新しいものでした。
また、地獄絵を見て、という連作もあるというのにも驚きました。

【目次】
身を捨ててこそ身をも助けめ　十九歳から二十五歳ころ
陸奥へ心惹かれて　二十六歳から三十一歳ころ
君に契りのある身なれば　三十二歳から五十歳ころ
讃岐詣　五十一歳から六十二歳ころ
厭離穢土・欣求浄土　六十三歳から六十八歳ころ
再び陸奥へ　六十九歳から七十三歳ころ
西行の名歌
西行の略年譜

●松は独りに(121頁)
ここをまたわれ住み憂くて浮かれなば
　　松は独りにならむとすらむ
❖こうした淋しい所ではあるが、もし住むのがうとましくなって、心を他に移して旅に出るようなことになったら、庵の前に生えている松よ、お前はひとりぼっちになってしまうんだね。本当にひとりぼっちになってしまうんだな。
●福原遷都(125頁)
治承四年(1180年)四月には源頼政が以仁王を奉じて、平氏打倒の兵を挙げている。この乱は間もなく鎮圧されたが、清盛はこの時期に山門、南都堂衆の動きに油断できぬもののあるのを感じ、そうしたことを避けるには、都を、自分たち平氏一門の地盤である福原に移すことが最上だと考えた。
(福原遷都の理由に、このような説があるのを知りませんでした)
●六道絵(137頁)
六道絵は当時の戦乱興亡の世に流布した六道輪廻思想―一切の衆生は善悪の業因によって、地獄、餓鬼、畜生、阿修羅、人、天の六種の迷界を生まれ替わり、死に替わり迷い続けなければならぬ―そういう仏教的人間解釈にもとづいて作られたものである。
●往生要集(138頁)
現在に遺る六道絵、地獄絵の大部分のものは、『往生要集』の地獄の条の記述を典拠としている。そこには地獄がいかなるところか、なみなみならぬ情熱をもって詳細克明に解説されている。
●奥州藤原三代(168頁)
初代清衡が中尊寺を経営したように二代基衡も毛越寺を経営し、その夫人は観自在王院を創建している。それから三代秀衡もまた無量光院を営んでいる。西行の眼に、こうしたものはいかに映ったことであろう。

☆関連図書(既読)
「西行－魂の旅路－」西澤美仁編、角川ソフィア文庫、2010.02.25
「西行」高橋英夫著、岩波新書、1993.04.20
「西行」白洲正子著、新潮文庫、1996.06.01
「白道」瀬戸内寂聴著、講談社文庫、1998.09.15
「西行と清盛」嵐山光三郎著、集英社、1992.04.25
「西行花伝」辻邦生著、新潮文庫、1999.07.01
(2013年1月9日・記)