戦略参謀の時代 経営企画室の役割と機能

二味巌(著者)

• 販売会社／発売会社: 産能大学出版部
• 発売年月日: 1990/05/30
• JAN: 9784382050495

商品レビュー

2010/05/13

・軍の参謀本部の原型を作り上げたのはプロセイン（後のドイツ）の参謀総長モルトケである。日本での先駆けは伊藤忠商事の瀬島竜三。瀬島氏は山崎豊子の小説、『不毛地帯』のモデル。
・意思決定に関するグレシャムの法則（H.A.サイモン）：「悪貨が良貨を駆逐する」というグレシャムの法則になぞらえて、日常的に判断しなければならない目の前の小さな意思決定にかかりっきりになり、本来トップがすべきより長期を見据えた戦略的意思決定が疎かになること。
・経営企画室の４類型。
⑴総務型（秘書型）：所謂サービススタッフ
⑵経営計画担当型：長期持久戦型。評論家タイプ。専門知識ひけらかし型。資料収集型。
⑶特命事項担当型。問題解決型。緊急型。虎の威を借るスタッフ帝国になりやすい。
⑷戦略参謀型。
インナーコンサルタント。総合調整型。
戦略参謀は、その基本的な機能として、調査、企画、調整の3つを挙げることができる。
１．調査：情報収集、収集された情報の整理、分析、要約、活用
２．企画：トップに対する献策（提案、意見具申）およびこれを実施する場合の具体的な対策の立案。代表的なものが経営計画の立案。
３．調整：トップおよび各部門責任者との協議、あるいは計画を実施するにあたって必要とされる資料の整備やラインに対する説明、実施部門との調整などが含まれる。
・ホロニック‐マネージメント【holonic management】
組織と個人が有機的に結びつき、全体も個も生かすような経営。生物は個々の細胞が自主的に活動して独自の機能を発揮する一方で、そうした個が調和して全体を構成する。これを企業組織のあり方にあてはめたもの。ホロン経営。

・どんなに立派な戦略や経営計画でも、床の間の飾り物となっては無意味。「百の議論よりも一つの実行」である。計画の策定と実行の分離が、企業の実行力不足に繋がる。問題は、策定と実行が別々ではなしに、一体化して、いうなれば戦略を策定する過程において、同時にまた実行の問題が解決されなければならないのである。

・変化の激しい時代であるほど、従来のアナリティカル（分析的）な戦略論から、ノンアナリティカル（非分析的）な戦略論への転換が必要。
・「戦略策定の理論」から、「戦略実行の方法論」へ。実戦的な計画づくり、納得づくの戦略づくりが極めて重要。

・日立の経営計画の作り方（1990年代当時）：まずはじめに企画室（経営企画部門）でマクロ的に環境予測を行う。それを常務会に提案し、そこでこれを検討しながらトップの経営意思を織り込んで、いよいよ決定になれば、これをガイドラ
インとして各事業部門に流す。各事業部門はその与えられた大きな枠組みの中で、ガイドラインの線に沿って、しかも各々の事業部門の特性を活かしながら事業部門の計画（部門戦略）を策定する。ここで最も特筆すべきことは、事業部で部門計画を策定している間に本社の企画室の方でも、独自の立場でそれぞれの部
門計画を策定することである。そして事業部門の策定した計画と、本社の企画室が策定した部門計画をぶっつけ合わせる。膝を突き合わせて話し合い（納得づくの計画、戦略をつくりあげるための対話プロセス）、問題のあるところは徹底的
に洗い直しを求める。こうして幾度となく議論し合った結果の計画、戦略であるから納得感が現場に醸成され、やらざるを得なくなるというところまで持ち込むのが重要であり、その手間を惜しんではならない。こうした納得ずくの戦略づくり（Interactive Planning）こそが、まさに理論と実践のギャップを埋め、しかも戦略をスムーズに実施するための大きな前提条件になるものである。