太宰治 主治医の記録

中野嘉一【著】

• 販売会社／発売会社: 宝文館出版
• 発売年月日: 1988/05/20
• JAN: 9784832013292

商品レビュー

2024/05/30

パビナール中毒で入院してた時の主治医の記録ということで、冒頭にカルテなども載っていたので興味深く読んだ。実際にはパトグラフィ（狂気と創造の関係性）を中心に筆者の太宰の文学論を展開する内容だったが、終始なかなかするどくおもしろい。

とくに、私が太宰文学に感じていた詩的なリズムに関する記述が多かった。太宰は入院中多くの言葉を書き散らしていたという。印象に残ったものをひとつ。
沈黙は金
涙は真珠　花はふるさと
気の弱い友

太宰のこうした文体のルーツに、俳諧、津軽のイタコの口寄せ、義太夫などをあげている。

13章の「桜桃忌でのアンケート質問用紙」は短いが非常に興味深かった。解答は整理され「太宰治研究雑誌」に掲載されるという。是非読んでみたい。

（1）①男・女②年齢③学校　職種（分野）
（2）太宰に出会ったと思われる時期と作品
（3）現在最も好きな作品と魅力
（4）他の好きな作家、哲学者、芸術家と太宰との対照・類似点
（5）太宰文学の内的本質をどういうところに発見しますか（例えば　やさしさ　道化　余計者　意識　虚無主義......）
（6）あなたは自分の性格をどう判断していますか
①内向的・外交的②分裂性（神経質・孤独）循環性（社交的・温和）粘着性（スポーツマン・気短か）③その他ご自分の特徴　協調性・理論的・感情的
（7）あなたはリビドー（生への意欲）とタナトス（死への願望）とどちらが自分の内部で強いですか
（8）心理学者フランクルに依って「あなたはなぜ自殺しないのか」という臨床的な問いを問われたら、なんと答えるか
（9）続けて、「生きている意味はあなたにとって何ですか」と問われたらなんと答えますか
（10）もし自分の本音が語れないとすると、それは何を恐れてですか

2010/12/06

著者は２８歳の太宰がパビナール中毒で精神科に入院していた時の主治医。
「HUMAN LOST」の若い医師のモデルでもあるらしい。
作品論も展開しています。非常に興味深し。