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チェロ湖 の商品レビュー

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2025/12/01

パラレル琵琶湖を舞台とした百年に亘る神話的一族小説、と私なりに説明したところでどうにも伝わらなさそうな気しかしないのですが、ともかく音楽とあらゆるもの(生命の有る無し関係なく)の声と雄大な時間の流れが溢れ出すような大長篇でした。魅力的な登場人物が出てきてひたすら楽しい部分と、戦争...

パラレル琵琶湖を舞台とした百年に亘る神話的一族小説、と私なりに説明したところでどうにも伝わらなさそうな気しかしないのですが、ともかく音楽とあらゆるもの(生命の有る無し関係なく)の声と雄大な時間の流れが溢れ出すような大長篇でした。魅力的な登場人物が出てきてひたすら楽しい部分と、戦争をはじめとする暴風のような理不尽に破壊される苦しみや悲しみに満ちている部分を“じゅんさいのように”ひとつに包み込み希望へと飛翔させる、ものがたりの醍醐味のひとつはこれだなあとしみじみと実感させられました。それから出てくる料理が食べたくなるようなものでこういう小説はほっと出来て本当によいですね。

Posted byブクログ

2025/11/07
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

いしいしんじ氏の作品を900ページ超の大長編で読めるというだけですごく楽しみにしていたのだが、期待を上回る面白さで読んでいる間ずっと幸せだった。 湖畔に住む若い男が日々湖に繰り出し、蓄音機の針を竿に括り付けて、湖と自分の一族の壮大なものがたりを釣り上げていくおはなし。誰よりも長い息を持ち、いつも半分水に浸かっている魔性の女の曽祖母、「風津原人」の圧倒的自由さと強さを持つ祖父や、鳥のさえずりをうたいながら奇想天外の建築を手掛ける父などみんながみんなキャラが立っていて、さらに湖の豊かな生き物たちのにぎやかな声やにおい、風や音が押し寄せてきてとにかくものがたりの密度が高い! 100ページも読むと頭と心がいっぱいいっぱいになってしまって、少し休まないといけないくらい。 ものがたりは、決して優しく楽しいだけではない。いしいさんの物語は大体そうだが、辛く理不尽で胸が引き裂かれるような展開もたくさんある。それでもものがたりを貫く音楽があり、紡がれ続ける生き物の営みがあり、声はやまず、湖「うみ」は終わらないのだ。 「ひどいノイズや爆風のこだまするこの世界の底で、石くれや板っぺら、ひょっとしてガラスのかけら、砂のひと粒にいたるまで、それぞれ固有の声で物語をささやきあっているなんて、この瞬間まで想像したことがなかった」 母千四子がそう気が付く場面があるが、まさにこの小説そのもののような気付きだと思う。いしいしんじ氏の書くものがたりのうつくしさ、尊さがここにある。 常識的には石や板がしゃべるなんて、ただの妄想、物語の中のお話だと思われるだろう。それでも、私たちがそっと耳を傾ければ彼らも声を届けてくれるのではないか、絶望的な世界にも声は存在するのではないか、ものがたりを超えてそう信じたくなる力がこのものがたりにはある。そういう現実とものがたりのあわいを漂うような感覚が、私はたまらなく好きなのだ。 この小説自体にも、あわいというか汀は舞台としてたくさん登場する。湖の世界と人の世界が溶け合っていく。「みずうみのゆめ」、恐ろしくもなんて魅力的なんだろう。生き物の歌が響きあい、湖に抱かれながら進んでいく人間たちのものがたりをゆっくり読み進めるのはとても心地よかった。何度でも読みたくなる小説。

Posted byブクログ