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凍てつく川を越えて逃げる の商品レビュー

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2025/10/16

キリスト教メノー派というマイナーな教派の数世紀に及ぶ逃亡・移住の世界逃避行の記録である。 オランダで16世紀メノー・シモンズが始めた教団メノー派の存在はこの著作を通して初めて知った。 ルター派よりも先鋭で教義は非暴力・無抵抗・幼児洗礼を認めない再洗礼派で150万人くらいの教団であ...

キリスト教メノー派というマイナーな教派の数世紀に及ぶ逃亡・移住の世界逃避行の記録である。 オランダで16世紀メノー・シモンズが始めた教団メノー派の存在はこの著作を通して初めて知った。 ルター派よりも先鋭で教義は非暴力・無抵抗・幼児洗礼を認めない再洗礼派で150万人くらいの教団である。勤勉で徴兵や出兵を拒否する人たちである。 彼らは16世紀から始め20世紀にかけて、オランダからドイツそしてロシア、更にウクライナ南部からアムール川やウスリー川を渡って中国のハルピンへと移住を繰り返す。最後は少数がアメリカやカナダに、ほとんどの人はフランスを経由してパラグアイやブラジルに移住する。世代を越えて壮絶な体験を繰り返した宗教教徒の歴史である。非暴力・無抵抗主義で徴兵を拒み回りや政府と軋轢を生み居づらくなる。 その都度苦労して荒廃地を開墾し新しい農業や酪農をはじめ、必死に取り組み生活基盤を築きあげる。 又それを捨てて新しい土地に行きゼロから始めることの繰り返しに、宗教の何がこれ程人間集団の生活に影響を与えうるものなのか、驚愕であり疑問である。 この作品は16世紀オランダで始まるキリスト教メノー派教徒が資本主義形成に果たした役割を研究してきた恩師から紹介された。 作者は後書きで彼の研究成果を引用していることも書いている。自分の想像するところ、プロテスタントの一教派であるが、オランダにおける資本主義の発生・発達にとっては一定程度の役割を果たしていて、そのポイントは彼らの「勤勉さ」にあるような気がする。 作者はその側面にはあまり触れないので、この作品は異端教徒の世界規模での逃避行というドキュメンタリーになってしまう。肝心な彼らの存在が歴史的にいかなる意味を成したのか、それは何故かが思考されていない。この作品が厚みを感じさせない理由であろう。 反面、歴史的観点からこれ程マイナーな教派の経緯を 調べ続けるアカデミズムの姿勢には凄さを感じる。

Posted byブクログ