時代小説ザ・ベスト2025 の商品レビュー
時代小説ザ・ベスト2025。 佐藤雫「花影の皇子」 青春の甘酸っぱさが香る短編。憧れと喪失は、どの時代でも誰が登場人物でも物語になる。ただ、十市皇女の行状は高市皇子視点で描かれているので、綺麗なものであるけども、八方美人という色眼鏡で見てしまうと途端に物語の澄明さがくすんでくる...
時代小説ザ・ベスト2025。 佐藤雫「花影の皇子」 青春の甘酸っぱさが香る短編。憧れと喪失は、どの時代でも誰が登場人物でも物語になる。ただ、十市皇女の行状は高市皇子視点で描かれているので、綺麗なものであるけども、八方美人という色眼鏡で見てしまうと途端に物語の澄明さがくすんでくるような気もする。穿った読み方であるのは承知ですが、ちょっとした違和感を感じたのも事実なので。それでも、憧れと喪失が生み出す清冽な空気感は消えませんでした。 村木嵐「詩魔」 おそらく、連作の中の一編なので、この短編だけでは、魅力が伝わりきらないのではないか、と思いながら読みました。こう、なんというか物足りなさが残ります。 新たなに興味の湧く作家・作品に出会うきっかけになるのも、短編集の良いところです。 伊吹亜門「黒楽茶碗 朧」 『ヘうげもの』に着想を得て書いた短編ということですが、『ヘうげもの』は本格歴史長編ギャグ漫画じゃないと思うんだよな。「笑い」の部分が、漫画のテーマの一つではあるのは事実だけど、それはギャグではないと思う。「派手」「侘び」「驕奢」「雅」「伊達」「無粋」などなど、登場人物それぞれが求めた自分の美意識があるのですが、古織のそれは「笑い」を含む「楽」であって、ギャグと言われると一面を切り取ったように思えるのです。言葉尻を捉えたようで難しいけど、ギャグではないよ。ギャグだけではないよ、という気持ちです。 砂原浩太朗「縄綯い」 救いの無い暗い物語でありました。反骨の気持ちを奮い立たせて生きてゆこうという最後の場面。それがあるから、立ち止まり沈み続けてゆく人生で終わらない、という気持ちを読み取れたので、なんとか気持ちが立て直せました。 市井の人々の暮らしを描く物語も多々ありますが、「縄綯い」はその中でもかなり陰鬱な気持ちになるのでは?突然の家族の死によって生活が立ち行かなくなり、犯罪や事件に巻き込まれる、というのではなく。生活が苦しい中でも日々は続いてゆく、なんとか生き抜かなくてはいけないが、上昇の兆しが見えないというのは暗く苦しい。 印象に残った四つの短編でした。
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