世界一わかりやすい リスクマネジメント集中講座 第2版 の商品レビュー
本書は、リスクマネジメントが特定の大企業だけでなく、中小企業、家庭、個人といったあらゆる組織や人に不可欠なスキルであるという視点から、その本質を分かりやすく解説することを目指しています。著者自身の経験に基づき、専門用語を避け、豊富なイラストや図表を用いて、初心者にも親しみやすい講...
本書は、リスクマネジメントが特定の大企業だけでなく、中小企業、家庭、個人といったあらゆる組織や人に不可欠なスキルであるという視点から、その本質を分かりやすく解説することを目指しています。著者自身の経験に基づき、専門用語を避け、豊富なイラストや図表を用いて、初心者にも親しみやすい講義形式で構成されています。リスクマネジメントの基本的な考え方から始まり、個人、家庭、組織、そして大企業へと段階的に理解を深められるように工夫されています。 リスクマネジメントの第一歩は、達成したい「目的」を明確に認識し、その達成を阻害する可能性のある「リスク」を洗い出すことから始まります。リスクは目的を持つ瞬間に生まれ、目的がなくなれば消滅するという特性を踏まえ、目的達成に必要な要素を特定することで、リスクを効率的に洗い出す方法が示されます。洗い出されたリスクは、発生可能性と影響度の二つの軸で評価するリスクアセスメントによって整理され、優先的に対応すべきリスクを特定するためにリスクマトリックスが活用されます。 リスクマネジメントの考え方は、組織だけでなく個人や家庭にも応用可能です。本書では、家族の将来像を「目的」として設定し、その達成を妨げるリスクを家族で話し合うワークショップの例を通じて、リスクマネジメントがコミュニケーションツールとしても機能することを示唆しています。夫婦間の認識のずれを明確にしたり、家族としての共通目標を設定したりすることの重要性が強調され、日常生活におけるリスクマネジメントの有効性が解説されています。 組織におけるリスクマネジメントでは、まず組織を取り巻く外的環境と組織内部の内的環境を分析することから始めます。その上で、組織の目的と目的達成に必要な要素を特定し、リスクを洗い出します。リスク洗い出しの際には、目的達成に必要な要素の把握、周知された手法の活用、そして関連経験者の巻き込みが重要です。リスクアセスメントでは、誰が行っても同様の結果が得られるような体系的な分析と判断基準が求められ、固有リスクと残留リスクの概念や、リスクの大きさに応じた多様な対応策が紹介されます。 組織におけるリスク洗い出しの具体的な手法として、業務フロー図を用いた業務プロセスからの洗い出し、情報や環境といった資源からの洗い出し、「正解ありき」のアプローチによるギャップ特定、そして関係者の知見を活用したブレインストーミング、調査票、インタビューなどが解説されます。組織全体でのリスクマネジメントの仕組みであるエンタープライズリスクマネジメント(ERM)の重要性も強調され、共通言語化、個別仕組みとの統合、権限・責任の明確化、適切なリソース投入、相反する目的への対処、そしてパフォーマンス指標による成果測定がERMを効果的に実施するための鍵となります。 中小企業と大企業では、リスクマネジメントの実践においてそれぞれ異なる課題が存在します。中小企業では、重要なリスクの責任者決定や資源配分、管理方法の決定が重要であり、大企業では、人手不足、情報共有の難しさ、利害関係者の多さといった課題に対応する必要があります。ヤフー、日産グループ、シスメックスといった大企業の事例を通じて、トップダウン、ボトムアップ、ハイブリッドといったリスク洗い出しの手法や、モニタリングの重要性が示唆されます。 最後に、リスクマネジメントを実施しているはずの大企業で大事故が起きてしまう原因として、「学習していたつもり」「対策を打っていたつもり」「仕組みを入れていたつもり」という3つの「つもり病」が指摘されます。これらを回避し、リスクマネジメントを機能させるためには、トップマネジメントの本気度が不可欠です。また、危機発生時の対応やメディアとのコミュニケーションの重要性、そしてリスクコミュニケーションを通じて組織の信頼を維持することの重要性が強調され、本書はリスクマネジメントを組織と個人の成長に繋げるための実践的な指南書として位置づけられています。
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