1,800円以上の注文で送料無料

ロベスピエール の商品レビュー

3

2件のお客様レビュー

  1. 5つ

    0

  2. 4つ

    0

  3. 3つ

    1

  4. 2つ

    0

  5. 1つ

    0

レビューを投稿

2025/08/10

フランス革命時に登場したこの人物に何となく興味を持って読んでみた。本書によると、ヒトラーやスターリンでさえその罪と共に『良いこともした』と言われることがあるのに、ロベスピエールに関してはそうした評価は皆無だという。独裁者として後の世に非常に評判が悪いその人物像を追う。 本書で度...

フランス革命時に登場したこの人物に何となく興味を持って読んでみた。本書によると、ヒトラーやスターリンでさえその罪と共に『良いこともした』と言われることがあるのに、ロベスピエールに関してはそうした評価は皆無だという。独裁者として後の世に非常に評判が悪いその人物像を追う。 本書で度々『清廉の人(腐敗のない政治家)』という言葉と、幼い頃から非常に頭が良かったことが述べられている。独裁者という人物像は後に政敵達によって作られたイメージが多分にあるようだ。ロベスピエール自身が決断に加わって恐怖政治を行っているが、他の政治家も似たりよったりであり、権力闘争の中の一コマのように思える。そして共通しているのは『熱狂した民衆』の支持が背景にあることだ。社会から不要とされた人物が民衆の後押しで処刑されるのは『究極の民主主義』を感じる。 公開処刑が一つの『見世物』だった当時と今とで価値観がかなり違うことを考慮する必要がある。社会を変える必要がある変革期には理想の実現のためには荒っぽい政治手腕が必要とされること、そしてそれを支持する民衆の存在がいつの世もあるようだ。

Posted byブクログ

2025/04/02

第I部 青春 ― 理想の萌芽と人格形成 出自と教育  北フランスの中流家庭に生まれ、幼少期に母を亡くし、父は家を出奔。叔母のもとで育つ。教育熱心な環境に育ち、特に宗教的・道徳的規律を重んじる影響を受けた。  →「美徳(ヴェルトゥ)」の重視はこの人格基盤から形成された。 パ...

第I部 青春 ― 理想の萌芽と人格形成 出自と教育  北フランスの中流家庭に生まれ、幼少期に母を亡くし、父は家を出奔。叔母のもとで育つ。教育熱心な環境に育ち、特に宗教的・道徳的規律を重んじる影響を受けた。  →「美徳(ヴェルトゥ)」の重視はこの人格基盤から形成された。 パリでの学業と内面化されたルソー思想  ルイ=ル=グラン学院で厳格なスコラ教育を受ける。ルソーを「魂の師」と仰ぎ、「社会契約」「一般意志」「公共の幸福」に傾倒。 法曹としての出発と政治意識の芽生え  アラスで弁護士として活動。社会的不平等、特に死刑制度や身分差別に敏感だった。パンフレット活動で「抑圧された人々」の弁護に立ち、平等主義と人道主義が顕著に。 第II部 革命の幕開け ― 民主主義者としての登場 1789年:全国三部会での登場  第三身分(平民)の代議士として、特権の否定、すべての市民の平等な参政権を主張。球戯場の誓いに参加し、「人民主権」を明確に支持。 代表制の批判と「透明な政治」概念  特権階級の「代表」性を否定し、民意との乖離を追及。政治家が個人的利害を捨て、「一般意志」に忠実であるべきと主張。 国王逃亡と共和制への転換  ヴァレンヌ事件を契機に、ロベスピエールは立憲君主制から完全な共和政支持へとシフト。王権はもはや無効とする。 第III部 共和国の誕生 ― 理想と現実のあいだで 国王の処刑と民主政の成立  ルイ16世の処刑は、王政との断絶を意味し、共和国の確立を象徴する。だが、それは暴力による決着でもあった。 「陰謀論」の強迫と対立の激化  政治の場は急速に「敵か味方か」という二項対立へ。ジャコバン派がジロンド派を追放し、急進化。 選挙と人民主権の限界  「普遍男性参政権」は導入されるも、実際の投票率は低迷。人民主権の実現は制度的には成立したが、民衆の関与は限定的。 新たな宗教観と公共道徳の構想  「理性の祭典」「最高存在の祭典」など、市民宗教的儀礼を通じて倫理的統合を目指す。 第IV部 恐怖政治の時代 ― 理想の反転 革命政府と非常措置  戦争と内乱の中で、ロベスピエールは「非常時の共和制」を正当化し、公安委員会による強権的統治を主導。 プレリアル22日法と粛清  法の名のもとに迅速な裁判と処刑が可能に。エベール派、ダントン派といった内部勢力も次々と処刑され、恐怖は「純化」の手段へ。 道徳政治の理想と独裁化  「美徳と恐怖は一体」とする理論で、暴力を正当化する。政治の倫理化を目指すも、結果的には暴力と疑心に基づく支配に陥る。 孤立と最期への道  ロベスピエール自身が公安委員会内で孤立。やがてテルミドールの反動(1794年7月)で逮捕・処刑される。 エピローグ 《透明》を求めて ― 民主主義の寓話として 「透明な政治」という危険な理想  ロベスピエールが目指した「透明性」は、民衆と政治の完全な一致というユートピアだったが、それは現実には「全体主義」的暴力を呼び込む構造を孕んでいた。 ルソー的理想の政治的帰結  「公共善」「一般意志」の追求は、個人の異論や私的動機の否定へとつながる。道徳の絶対化が、他者の排除を正当化する道具となった。 現代への警鐘と教訓  本書は、ロベスピエールの理想主義と失敗から、現代民主主義の抱える「代表されていない感覚」「制度の硬直化」「ポピュリズムの台頭」といった課題を照射する。  → 民主主義は不断の調整と妥協によってしか成立し得ないと訴える。 総括 本書は、ロベスピエールを単なる「恐怖政治の独裁者」として描くのではなく、民主主義の理想に殉じた道徳的政治家として読み直し、その思想的・哲学的核心を丹念に掘り下げている。 そのうえで、道徳の政治化がなぜ暴力に転化しうるのか、そして現代の民主主義にとってロベスピエールのヴィジョンが持つ警鐘的意味とは何かを問う、「民主主義批判の書」としての深さを備えている。

Posted byブクログ