ほんのささやかなこと の商品レビュー
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SL 2026.4.15-2026.4.16 1985年のアイルランド、クリスマスの時季の中篇。カトリック修道院での信じられないほどの人権侵害。しかも政府はそれを容認。 アイルランドに実在のマグダレン洗濯所をモデルにしているとのこと。 こんな非人間的なことが1996年まで現実として行われていたのかと驚くと同時に、大きな権力の前には倫理などどうにでもなってしまうんだという諦観もある。それは21世紀の今でも人知れず世界のどこかにはあるのではないかと。
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マグダレン修道院が舞台の映画、「決断のとき」を見て原作を読んでみた。映画ではっきり語られていなかったことが語られていたし、原作ではわかりにくい所が映画では可視化されていた。ファーロングの母がネッドと結婚していればファーロングの過去の問題は解決したのでは?と思った。 修道院で起こったことは宗教を使った虐待と人権侵害なんだけど、これがつい最近まで隠されていたことに驚愕。
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北海道恵庭市で元市会議員が経営する牧場で3人の知的障害者が、長い人では40年近く食事もまともに与えられない劣悪な環境で奴隷のように無給で働かされていた。恵庭市はことを荒立てないために虐待事案としての申し立てを無視し続けた。この人たちが解放されたのはなんと2022年のことだ。全く同...
北海道恵庭市で元市会議員が経営する牧場で3人の知的障害者が、長い人では40年近く食事もまともに与えられない劣悪な環境で奴隷のように無給で働かされていた。恵庭市はことを荒立てないために虐待事案としての申し立てを無視し続けた。この人たちが解放されたのはなんと2022年のことだ。全く同じ話だし、昔の話ではない。この短い小説は社会の問題を外側から糾弾しているのではない。そんな社会のなかで生きていく中で、どうやって己の倫理を守り通せるのかということだ。そのための行動は確かに未来において大きな難題を産むかもしれない。でも、少なくともいまその倫理や徳を守るための行動はささやかなことなのだ。
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クレア・キーガンは「Walk the blue fields」と「Foster」は原書で読んでいて、読むのはこれが3作目ですが、これまで読んだ3作品の全てが本当に素晴らしい。 丁寧な日常の描写の中にふと差し込まれる違和感と、主人公が自らの生い立ちを振り返って、後悔をしないための...
クレア・キーガンは「Walk the blue fields」と「Foster」は原書で読んでいて、読むのはこれが3作目ですが、これまで読んだ3作品の全てが本当に素晴らしい。 丁寧な日常の描写の中にふと差し込まれる違和感と、主人公が自らの生い立ちを振り返って、後悔をしないための選択をするまで、彼の感情の流れを読みながら一緒に追体験できるような臨場感のある描写がすごく良かった。 この先、彼には多くの困難が待っているはずだけど、それでもなお、その選択は「後悔しないための決断」というよりも、彼が彼である以上そうするしかなかったもののように感じられた。 しかし、この出来事が1980年代だというのはなかなかに衝撃的 そして、さらに昔にとてつもなく大きな決断をしたであろうウィルソン夫人が特に印象深い
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衝撃。1996年に施設が閉鎖されるまでこんな非人道的なことが国家規模で暗黙の了解でまかり通っていたなんて。2013年にようやく政府が公式謝罪したなんて。しかもこんな重大なことを記録に残すフィクションやノンフィクションがほぼ存在しないなんて。並行して読んでいるアトウッドの小説の世界...
衝撃。1996年に施設が閉鎖されるまでこんな非人道的なことが国家規模で暗黙の了解でまかり通っていたなんて。2013年にようやく政府が公式謝罪したなんて。しかもこんな重大なことを記録に残すフィクションやノンフィクションがほぼ存在しないなんて。並行して読んでいるアトウッドの小説の世界とも完全にダブり、映画も現在上映中のようだからぜひみておこうと思う。犠牲になった女性たちの鎮魂のためにも。 ある平凡で幸せな一家の穏やかで誠実な父親の勇気と正義が風穴を開けるがその後この一家はどうなるのか。彼自身も未婚の母親の子供だったにも関わらず母親の雇い主である気概のある女主人のおかげで悪の施設に行かされることもなくそこそこ平穏に幼少時代を過ごせたのも彼に行動を起こさせた要因ではあるだろうが、教会と政府が結託した悪に対して一庶民として行動を起こせるか…権力に屈せず長いものに巻かれず、自身の良心だけに従って正しい道をいくことができるか… 厳格なカトリック、冬の厳しい寒さ、貧しさ、紛争などのアイルランドの閉塞感の中、ささやかながらも心浮き立つようなクリスマスのお祝いや素朴で真面目な住民の日常が読みやすい文章で丁寧に描かれる。そんな平凡で一見幸せな街に暮らす人々が、当たり前のように存在する残酷極まりない修道院やそこに囚われる女性たちの悲劇の実態を見て見ぬふりをせざるを得ない心情もまた慮るに難くない。 大きめな文字で静謐なタッチで綴られる中編小説で一日で読み終えられるほどの本当にささやかな告発だけど、読む者の胸に突きつける切先は鋭い。
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早くも、2026年の小説のベスト候補となる小説に出会ってしまった。 日本語に不自然なところが多く、英語版と並行して読んだが、伝統的なアイルランド小説の流れを汲むと思しい散文的というか、1人称に限りなく近い3人称で思索の流れを中心に読者が主人公の思考に没入して類推していくことを強...
早くも、2026年の小説のベスト候補となる小説に出会ってしまった。 日本語に不自然なところが多く、英語版と並行して読んだが、伝統的なアイルランド小説の流れを汲むと思しい散文的というか、1人称に限りなく近い3人称で思索の流れを中心に読者が主人公の思考に没入して類推していくことを強いるような文体で、翻訳が難しいところもあったのかと思った。 内容は、強い衝撃を受けた『ドイツ亭』を思い出さずにはいられない。社会的な事象を、一人の人間のあり方として具体化して示すことで胸がしめつけられるような思いを抱かせる。ラストも救うでもなく絶望させるでもなく、読者をただ複雑な現実に放り出す。ウイスキーをぐいっと飲まずにはいられないような読後感である。 原題は "Small Things Like These"。彼女の他の作品も読みたい。すぐにでも読みたいが、できるだけ原文で味わいつつ、その夜にじっくりとグラスを傾ける時間を確保して読みたい。
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胸に迫る話。アイルランド修道院の女性強制労働施設。社会の闇。助けを求められたビルは片親でウィルソン夫人がいなければ母子収容施設送りだった。助ければ教会を敵に回す。助けるか見過ごすか。厳しい選択。
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見て見ぬ振りをするべきか、果たして見なかったことになんて出来るのか。 自分だったらどうだろう。きっと家族は見なかったことにしろって言うんだろうな。あなたひとりが動いたからってなにになるのって。 でも、あの時助けられなかった、声を上げなかったから辞めてしまった会社の後輩の顔、今で...
見て見ぬ振りをするべきか、果たして見なかったことになんて出来るのか。 自分だったらどうだろう。きっと家族は見なかったことにしろって言うんだろうな。あなたひとりが動いたからってなにになるのって。 でも、あの時助けられなかった、声を上げなかったから辞めてしまった会社の後輩の顔、今でも思い出すよ。声をあげればよかったし、ちゃんと味方になればよかったと思う。 罪滅ぼしにもならないけど、今はおかしいことはおかしいというし、飄々と、でも長いものに巻かれないように自分なりに抗って生きている。小さなことだけれど、小さなことから。 映画も楽しみです。
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静かな物語です。 けれど静かな中に、作者の強い思いが伝わってきます。ほんの少し前まで実際にあった「マグダレン洗濯所」をモデルにして、その非人道的な活動、実態を皆んなに知ってもらおうと小説のかたちで書かれたもの。 カトリック教会とアイルランド政府が、手を結んで進めてきた社会の暗部に...
静かな物語です。 けれど静かな中に、作者の強い思いが伝わってきます。ほんの少し前まで実際にあった「マグダレン洗濯所」をモデルにして、その非人道的な活動、実態を皆んなに知ってもらおうと小説のかたちで書かれたもの。 カトリック教会とアイルランド政府が、手を結んで進めてきた社会の暗部に対し、主人公は自分たちの今の生活が、子供たちの将来も含めて厳しいものになるのをわかっていても、一人のキリスト教徒として見過ごせなかった。 そのあたりの苦悩がよく伝わってきました。 この作品に目を止めて、翻訳してくださった鴻巣さんに感謝します。 ささやかな小説ですが、たくさんのものが詰まった本でした。良かったです。
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妻と5人の娘たちと仲睦まじい生活をおくっている石炭と木材の商人ファーロング。 彼の周りではいつも淡々と時間が過ぎて行くが、そんな中でも家族や近所の人々との触れ合いを通じてささやかな幸せが伝わってくる。 しかしある日、仕事のために訪れた女子修道院で史実に基づく事件が起こる。そこ...
妻と5人の娘たちと仲睦まじい生活をおくっている石炭と木材の商人ファーロング。 彼の周りではいつも淡々と時間が過ぎて行くが、そんな中でも家族や近所の人々との触れ合いを通じてささやかな幸せが伝わってくる。 しかしある日、仕事のために訪れた女子修道院で史実に基づく事件が起こる。そこでファーロングが取った選択は、「ささやかなこと」とはかけ離れたものだった。 物語は起伏がなく淡々と進むため読み手によって好みが分かれると思う。
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