すべての罪は血を流す の商品レビュー
アメリカバージニア州の高校で教師が銃撃され、現場からさ迷い出た黒人少年も保安官に射殺された。少年は教師殺害の犯人とされるが、調査していくうち隠されたおぞましい犯罪が明るみに出る。黒人奴隷を使っての農場経営の歴史のある土地。いまだに続く白人と黒人の対立感情。この事件の根幹はそこにあ...
アメリカバージニア州の高校で教師が銃撃され、現場からさ迷い出た黒人少年も保安官に射殺された。少年は教師殺害の犯人とされるが、調査していくうち隠されたおぞましい犯罪が明るみに出る。黒人奴隷を使っての農場経営の歴史のある土地。いまだに続く白人と黒人の対立感情。この事件の根幹はそこにあった、と見た。 探るのは元FBIにいたがある事件で故郷の戻り保安官となった黒人のタイタス。正直で正義感あふれる女性にも平らに接する人物設定。事件が渦をまくように広がりでる筆致。登場人物が多く、人物一覧はもっと人数をふやしてほしい感じだが、ページが進むにつれ読む手がとまらなくなる。 ちょっと映画「死刑にいたる病」を思い起こす。 S.A.コスビー:1973バージニア州生まれ ・2018「The Grass Beneath feet」(短編)をオンライン雑誌「TOUGH」に発表し注目される ・「My Darkest Prayer」長編デビュー 未邦訳 ・「黒き荒野の果て」2022.2ハーパーブックス ・「頬に哀しみを刻め」2023.2ハーパーブックス (このミス2024年度版 海外1位) オバマ大統領が23年の読書リストにあげた。 2023発表 2021.5.20第1刷 図書館
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一作目『黒き荒野の果てに』もパンチ力があったが、『頬に哀しみを刻め』は文句なしの凄玉だった。白人と黒人の双方とも息子を殺された父親というダブル主人公。しかも息子たちの関係はホモセクシュアルであったという、社会的受難を二重三重に受けた中年二人が、人種の壁を乗り越え協力して犯罪者で...
一作目『黒き荒野の果てに』もパンチ力があったが、『頬に哀しみを刻め』は文句なしの凄玉だった。白人と黒人の双方とも息子を殺された父親というダブル主人公。しかも息子たちの関係はホモセクシュアルであったという、社会的受難を二重三重に受けた中年二人が、人種の壁を乗り越え協力して犯罪者であり差別主義者である連中と闘ってゆくあまりに胸アツの作品であった。毎年一作ペースで、今年も例によって一作、そして毎度のことながらテーマは人種間の軋轢、差別、そしてそれが起こす犯罪である。しかし、本書は一つの犯罪だけではなかった。読者は、ある街の過去にまで遡る犯罪の犠牲者たちの堆積、そして現在も起こる山のような人種差別の暴力に対峙しなければならないのである。 本書は黒人警官タイタス・クラウンのまずまずの日常が、事件の勃発によって破られるところからスタートする。現場に駆けつけると、高校で白人教師を射殺した黒人青年が警官たちに包囲され、うち一人の発砲によって射殺される。いつもの通り劇的な幕開けだ。 しかし射殺された白人教師の携帯電話に遺されたビデオには陰惨な殺人動画が遺されており、多くの黒人たちが惨殺されその死体が隠され埋められているという大事件に発展する。動画に映っていたのは複数の名のある人間たちで、それを捜査する保安官が黒人主人公であるタイタス。彼はFBI出身の優秀な人材だが、この町で黒人保安官であるゆえに敵も多く、陰湿な攻撃に晒されつつの捜査という苦境の中で孤立しつつ闘う運命となってゆく。 捜査を進めるうちに数人の隠れ差別主義者による暴力が明らかになってゆく。土の下から掘り起こされる複数の黒人児童たちの亡骸。動画に映っていた黒人の子供たちの虐待と殺人のシーンなどから、三人の白人が浮かび上がる。うち一人が射殺された教師だったことに町は揺れ動く。尊敬される教師であった人物が実は黒人児童を殺害して動画に撮るような男であったのだ。 黒人警官であるゆえに差別や暴力と闘わねばならない構図。コスピーが前作でも前々作でも書いてきたテーマである人種差別と、そこから生まれる暴力。人間というよりも野獣のような残酷さ。そして社会がそれを更生し切れずにいるアメリカ南部という隠された地獄。それらを今なお描き出し、闘おうとする作者並びに主人公の保安官。どうにも落ち着きどころのないテーマを描いて三作目。 本書は初の警官主人公というど真ん中のヒーローを軸にして、街を揺り動かす連続人種差別事件、そして埋もれていた山ほどの殺人事件の発掘というところまで繋がる人種差別組織の存在。KKKを思わせる差別と犯罪という永遠の命題に取り組み続けるコスビー作品三発目であるが、これまでで最も正面切った構図であること(FBI帰りの黒人保安官が主人公となって真向犯罪と対決というのはいつものコスビーらしくなく、全体に平坦なイメージ過ぎたか)、また犠牲者があまりに多すぎること、残酷過ぎることなどから、やり過ぎの評価を免れることはできないような気がするが、そこを気にしない方にはコスビー節が心地よいのかもしれない。ぼくは、ここまで過酷な作品だと、罪の深さもあまりに不快過ぎてちと読みづらかったというのが本音のところです。
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著者の過去作はアウトローが主人公だったけれど今回は真逆の保安官が主人公。 今回の主人公は苦いを通り越して惨い経験をしているせいでかなり自罰的。 舞台も人種差別が未だに残る土地なので爽快感や疾走感はないけれど主人公の交友関係や心理描写が丁寧で読み応えがある。 主人公の性格や思考に共...
著者の過去作はアウトローが主人公だったけれど今回は真逆の保安官が主人公。 今回の主人公は苦いを通り越して惨い経験をしているせいでかなり自罰的。 舞台も人種差別が未だに残る土地なので爽快感や疾走感はないけれど主人公の交友関係や心理描写が丁寧で読み応えがある。 主人公の性格や思考に共感できる部分が多かったのでラストはとても良かった。
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CL 2024.9.7-2024.9.9 事件の捜査よりこの町に根強く残る偏見と差別、それによる分断と対立を描き出しているようなかんじ。 事件の様相もとてつもなく邪悪なもので、終盤では多くの人が死に、ラストは前を向いているとは言え、重い。
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黒人差別の残る南部の町。 元FBI捜査官のタイタスが 故郷であるチャロン郡の保安官となって一年、 ハイスクールで教師が銃殺される事件が起こる。 その事件をきっかけに、平凡だった町に次々と おぞましい出来事が。。 正直、黒人差別の問題やキリスト教に関して どれだけ理解しようとして...
黒人差別の残る南部の町。 元FBI捜査官のタイタスが 故郷であるチャロン郡の保安官となって一年、 ハイスクールで教師が銃殺される事件が起こる。 その事件をきっかけに、平凡だった町に次々と おぞましい出来事が。。 正直、黒人差別の問題やキリスト教に関して どれだけ理解しようとしてもしきれない部分はあるけれど、それを上回る物語のおもしろさに 最後までグイグイと引っ張られ読了。 文章が時にロマンチックだったり、 格言的な台詞に説得力があったりと 印象的な箇所が多かった。 主人公はたくさんの苦悩を抱えながらも自分を律し 犯人逮捕に向け、なんとか前に進む。 その姿が痛々しく切ない。 彼の家族を含め、その先の人生に幸あれ! と願ってしまう。 以下、気になった箇所 おもな登場人物以外の、その他の人物が多すぎて 名前のメモは必須。 この人は黒人、はたまた白人?と迷う場面も多く、 この作品については大事な所なので もうちょっとわかりやすかったらもっと良かった。
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相変わらずの勢いで、今回も一気読み。宗教色&地域性強め。アメリカの一部地域でブラックとして生きる過酷さを思い知りました。あまりにひどい事件が次々と訪れて滅入ります。タイタスの新しい人生が幸せであるよう祈らずにいられません。前半なかなか登場しなかった弟、いいやつじゃん、と思...
相変わらずの勢いで、今回も一気読み。宗教色&地域性強め。アメリカの一部地域でブラックとして生きる過酷さを思い知りました。あまりにひどい事件が次々と訪れて滅入ります。タイタスの新しい人生が幸せであるよう祈らずにいられません。前半なかなか登場しなかった弟、いいやつじゃん、と思えましたね。
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・あらすじ アメリカヴァージニア州が舞台。 未だ人種差別が色濃く残る南部の田舎町チャロン郡で保安官をしている元FBI捜査官タイタス。 ある日高校で銃撃事件が起こる。 加害者の黒人男性はその場で射殺されるが、被害者の携帯電話にあったSDカードから加害者と被害者、そして狼のマスクを被った男たちが黒人の少年少女達を拷問殺害しているスナッフフィルムが発見される。 ・感想 流石のコスビー、面白くってあっという間に読み終わってしまった。 1970〜80年代の話なのかと思いきや2000年代が舞台ということで少し驚いた。 南部の人種差別というのはここまで根深いものなんだと些細な描写で実感させられた。 私はアメリカ南部には行った事ないし小説やドラマでしか触れたことがないから勝手な憶測?だけど2000年代にはもうちょっとマシになっているかと思ってたわ。 法律に則り公平・公正であるために常に自分を厳しく律しているタイタスだけど、その信念のためにどの立場の人間からも煙たがられていたり…。 ずっと自分を律してきていたからこそ、最後チャロン郡を旅立つ時に【南部の反逆者 ジョー】という差別の象徴である銅像を引きずり倒して笑う描写にはとても爽快感があった。 タイタスには穏やかな余生(?)を送ってほしい…。 犯人予想に関しては邪道な方法(登場人物一覧の消去法。「こいつ登場人物欄にいる割に全く話に出てこないな?」とか思いながら)絞り込んで読んでたw 犯人の家に突入するシーンから最後の戦闘シーンまでは手に汗握る描写で痛々しくもハラハラしっぱなし…犯人発覚の段階で残りページがほぼ無かったからどう決着させるのかと思ってたけどサクサク進んだ。 南部の強烈で強固な信仰心は私みたいなふんわりテキトーな信仰心(無宗教とは思ってない)しか持ってない人間にはちょっと理解できないところもある。 だからタイタスの「犯人を神格化してはいけない」「悪魔も神もなくただの人間」だというリアリストな部分は読んでて共感した。 コスビー作品はまだ黒き荒野の果てが未読なのでこっちも早く読みたい。
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過激で悲惨な場面が多すぎてなかなか読み進めなかった。それにしても、差別意識の改善されなさに、改めて自分の胸に問いかけたい。
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人種差別が色濃く残るアメリカ南部での猟期殺人。新たな殺人が次々と見つかり、黒人保安官の苦悩を感じながら進んでいく。 次々と傑作を打ち立てていくコスビーに次への期待も更に高まる。
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S.A.コスビーの3作目。 今作は前2作のノワールから変わり、ゴリゴリの警察小説。 舞台はアメリカ南部の街。拳銃を所持した黒人の高校生を、保安官たちが射殺する。高校生は殺される直前、先生の携帯を見ろと言い残す。教室では教師が殺されていた。この街初の黒人の保安官タイタスは殺された教師の携帯を調べるが、中には目を背けたくなるような残虐な映像が残されており。。。 いくらなんでも前作「頬に哀しみを刻め」より面白いことはないだろうと読み始めたが、すみません、軽々と超えてきました。 正直物語のまとまり方は前作の方が上だけど、今作の警察小説としての手堅さ、完成度は圧倒されるほど良かった。 アメリカ南部の人種差別、独特の宗教感がこれでもかと言うほど描かれており、黒人保安官タイタスの非常に難しい立ち位置がわかりやすい。 若干、ラストが駆け足気味だったが、面白さは抜群だったため、今年を代表する翻訳小説になると思う。 というか、5月と6月は本作に加えウィタカーの新作、ボルトンの10年ぶりの新作、クレイヴンの新シリーズと、とんでもない豊作で嬉しい悲鳴。
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