2022年のモスクワで、反戦を訴える の商品レビュー
一般の市民が独裁者を非難すればどうなるのか、色々と考えさせられる一冊でした。反体制派に対する徹底した監視と弾圧は、裏を返せば一人のか弱い女性ですら崩壊の危機を招くことを恐れている独裁者のサイコパスを示しているのではないだろうか。第二次世界大戦を聖戦と呼び、反戦家を治安維持法で逮捕...
一般の市民が独裁者を非難すればどうなるのか、色々と考えさせられる一冊でした。反体制派に対する徹底した監視と弾圧は、裏を返せば一人のか弱い女性ですら崩壊の危機を招くことを恐れている独裁者のサイコパスを示しているのではないだろうか。第二次世界大戦を聖戦と呼び、反戦家を治安維持法で逮捕した日本も他人事ではない。日本軍勝利の偽情報を盲信した報道機関や国民は、プーチンを支持しロシア軍のウクライナ侵略を正義と信じている大多数のロシア国民と大差ない。状況が変われば、多数が周囲の「空気」を読み保身の為に事大主義になることは歴史を知れば明らかだ。母親や夫が体制に盲従する中、著者のマリーナや支援者の弁護士、友人の勇気や強い意志には感動する。ロシアからの圧力で敢え無く放映を中止した日本のテレビ局とは比べものにならない。
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生放送に乱入しても逮捕もされてないのでロシアには言論の自由があると宣伝するためのヤラセではないかという説を半分信じていたが、本書を読んでそれが完全に間違っていたことがわかった。本当に勇気ある覚悟の上の行動だったうえに、その後の誹謗中傷のひどさ(なんとウクライナ側からもロシアのスパ...
生放送に乱入しても逮捕もされてないのでロシアには言論の自由があると宣伝するためのヤラセではないかという説を半分信じていたが、本書を読んでそれが完全に間違っていたことがわかった。本当に勇気ある覚悟の上の行動だったうえに、その後の誹謗中傷のひどさ(なんとウクライナ側からもロシアのスパイだと非難された)、仕事のやりにくさ、家族の無理解、国外脱出の艱難辛苦など、まったく知らなかった事実が語られている。真のジャーナリストとはこのように勇気ある人たちなんだなぁと思った。実際すでに何十人も殺されたり収監されたりしているが、ジャーナリストとしての仕事をまっとうしている人は一部にいるらしい。戦争という言葉を使うだけで逮捕されるような国で本当に命をかけていることに頭が下がる。新聞社元モスクワ支局長の小柳氏による解説がたいへん参考になる。
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ロシアの体制の怖さと、政治の大切さを感じました。日本でも今後ありえる可能性があるので注視が必要だと思っています。
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自分がロシア人としてロシアに住んでいたら戦争反対と言えず違和感を覚えつつ洗脳された状態でいることを選ぶと思う。
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表紙カバーの画を視て「あの一件?」と強く興味を覚えて入手してみたのだったが、この一冊と出会えて善かったと、読後に余韻に浸る感でもある。紐解き始めてみて、本当に頁を繰る手が停められなくなり、殆ど一気に読了に至ってしまった。酷く引き込まれる内容だった。 仕掛けた側が「特定軍事行動」と...
表紙カバーの画を視て「あの一件?」と強く興味を覚えて入手してみたのだったが、この一冊と出会えて善かったと、読後に余韻に浸る感でもある。紐解き始めてみて、本当に頁を繰る手が停められなくなり、殆ど一気に読了に至ってしまった。酷く引き込まれる内容だった。 仕掛けた側が「特定軍事行動」と称している「戦争」が始まってしまった少し後、テレビの生放送のニュース番組でキャスターがテレビ画面に映っている背後に別な女性が現れ、「NO WAR!」(戦争反対!)と書かれた大きな用紙、プラカードを広げ始め、何やら「放送事故!」というような騒ぎになったことが伝えられていた。繰り返し様子が紹介されたので記憶している出来事だ。 この騒ぎの御本人ということになるマリーナ・オフシャンニコワ自身が、色々な経過で娘と2人でフランスに脱出した後に発表した手記の翻訳が本書である。御本人がロシア語で綴った手記に関してフランス語版や英語版が出ていて、日本語版は英語版からの重訳という計画で始まったというのだが、後にロシア語版から訳するということになって本書が纏まっている。 大きな波紋が起こった出来事の渦中で、事態の推移を御自身の来し方を交えて綴った内容である。何かドキュメンタリー風な演出の映画の作中世界に入り込むような感じで、少し夢中になって読んだ。読後に余韻に浸るが、これは遠い過去を振り返るような内容ではないことに想いが巡る。2022年の出来事であり、事態が正に進行形であった頃に綴り始めた内容を少し整理して2023年に入って発表された手記であるのだという。 マリーナ・オフシャンニコワ自身は、その生い立ちや来し方を通じて、ウクライナでの戦禍の哀しさを並み以上に解っていて、感じるところが大きな中であの「放送事故!」という騒ぎになった抗議活動へ突き進んだのである。 彼女の母はロシア人で、化学関係の技師としてオデッサに在った頃、ウクライナ人で海軍に勤務していた彼女の父と出会っている。が、彼女が生れる寸前か、生れた直後位に父は交通事故で他界したそうだ。そこで彼女は母と2人で暮らしながら育って行く。 両親が各々にロシア人、ウクライナ人という人は両国に多く居る。彼女もその一人で、幼少の頃には父の故郷に在る祖母が住む家を訪ね、従姉妹と遊んだ想い出も在るという。有触れた話しなのだが、こういう家族では兄弟の何人かがロシアに在り、何人かがウクライナに在って、今般の戦禍の中で家族が分裂して歩み寄れなくなってしまっている。彼女はそういう様子を「自身の身内の事」として知っている。 更に彼女は、戦禍で安寧を奪われる無念さを自身の経験として承知している。 化学関係の技師であった母は、チェチェンのグローズヌィーに職を得て出身地からそちらへ移る。彼女も一緒に暮らし、グローズヌィーで育った。が、チェチェンの紛争で安寧を奪われ「難民」ということになり、多くを喪った状態でクラスノダールに移る。 彼女はクラスノダールで成長してジャーナリストになり、やがてモスクワに移る。そして例の騒ぎ迄、モスクワで活動することとなる。 「報道の自由」というような事柄、気になることを自由に論じて意見表明をするというような事柄が年を追って歪められているというようにマリーナ・オフシャンニコワは感じて息苦しかった。そんな中の「戦争」だった。そこから例の「騒ぎ」だ。 ロシア人、ウクライナ人とが互いに武器を突き付け合う哀しみを慮ることが出来る故に、安寧を奪われる無念さを知るが故に、彼女は「NO WAR!」(戦争反対!)と一声上げたかったのだという想いが本書から伝わる。が、そうやって一声上げた彼女は「情報戦」の渦のど真ん中に晒されてしまうことになる。 恐らく彼女は、亡命先―それに至る経過等も、可能な範囲で本書に詳しく綴られている―で、ロシアやウクライナの件も含めた言論活動を展開するようになるであろう。何か発表されるのなら、それらも是非拝見したい。 凄く読み応えがある本書である。これも未だ続く戦禍に関する色々なことを考える大変に重要な材料たり得る一冊だと思う。広く御薦めしたい。
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