正義の行方 の商品レビュー
32年前に起きた少女2人の殺人事件、いわゆる飯塚事件の映画を元にしたというノンフィクションである。 すでに犯人として死刑にされた久間三千年は最後まで無実を主張した。 警察の立場から、弁護人の立場から、そして目撃者や妻も証言する。 一番不思議に思ったのは、その事件の3年前に近くで同...
32年前に起きた少女2人の殺人事件、いわゆる飯塚事件の映画を元にしたというノンフィクションである。 すでに犯人として死刑にされた久間三千年は最後まで無実を主張した。 警察の立場から、弁護人の立場から、そして目撃者や妻も証言する。 一番不思議に思ったのは、その事件の3年前に近くで同じく行方不明になっていた少女の遺体が、久間容疑者へのポリグラフ検査から発見された事だ。 正義とは何なのか? 戦争を起こした人たちにも正義はあり、立場によって正義の価値観が変わる… でも、誰かが嘘をついていたはずである。 それが誰なのか、何のためなのか、どうして急いで処刑されたのか、疑惑が残る事件である。
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※このレビューにはネタバレを含みます
正義というものについて考えさせられることがあり、タイトルを見た時に「誰のどんな正義についての話だろう?」と興味を惹かれて手に取りました。 恥ずかしながら飯塚事件というものを全く知りませんでした。名前は聞いたことはあったもののその事件の概要や、裁判・判決・死刑執行、更にその後の再審請求など全く知らず。(ドキュメンタリー映像もあるのですね) 司法における異例の事態といっても言い過ぎではない展開には息を呑みました。第二次再審請求の判断がほんの2週間前ほどにでたということもネットで知りさらに衝撃を受けました。 事件が起きた頃がDNA鑑定導入の黎明期だったことや足利事件とのからみなど、この時期でなければ事件のその後は違う展開を見せていたかもしれないと思わせられるものがあり、判決には確かに疑問を感じる点が本書を読んだ限りではとてもあります。 もしも無辜の民が処刑されたのならと考えたら…言葉を失います。 また、この人が犯人でなかったならば、極悪非道の人間が何の罰を受けることもなく普通に暮らしているということでもあり、大変怖いことです。 何人かの警察の人のインタビューを読んでいると、私にはそれは警察官としての正義というよりは思い込みなのではと感じさせられるコメントがありました。 後の警察庁長官になった人と西日本新聞の編集局長が信頼関係を元々持っていて、事件の関係で相反する立場になったという状況もなんだか因縁めいているなとも。 新聞社の人が最後の方で「司法というのは信頼できるんだと、任せておけば大丈夫と暢気に思っていたけれどそういうものじゃない」というようなことを語っています。私もそう思っています。 人生で普通に生きていたら中々検察官と関わることなどないでしょうけれど自分もある検察官と関わりそう思うようになりました。検察官だって人間です。正義からモノを言っていても、それが犯罪を犯した人ではなく無辜の人間を追い詰めることがあるのだと司法に関わる人間にはよくよくわかってもらいたいと今は思います。 本書の、無実の罪で処刑されたかもしれない人の妻が最後の方で(多分いつかの再審請求の最中と思いますが)「警察の中にまだ正義があると思ってる」と言ってることに私は正直驚きました。 そんな風に思えるものだろうか、と。確かにこの人の言うように個人個人の警察官にはいい人が多いかもしれない。でも夫を無実だと信じているなら夫を捕らえた人たちをそんな風には思えないのではと自分は思ったので、人の心はやはり不思議なものだと感じます。 「正義があまり好きではない」と話した弁護士さんに共感します。 正義を振りかざす人はそれを信じるあまり、誤っていてもなかなかそれを認めないし謝罪しない。そしてそれが本当に正義中の正義であったとしてもその正しさ故に逃げ場を失って追い詰められたり傷つけられたりして立ち上がれなく人間を生み出すことに気づかないです。 この事件の被告が無実だったかは永遠に分からないと思います。 本書と離れてやはり思うのは無辜の人を追い詰めるほどの正義って正義なのだろうか、ということ。 本書を読んでもそれはわかりませんでした。
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本を閉じ深い溜息が出た。 1992年、福岡県飯塚市で小学1年生の女児二人が登校中に何者かに連れ去られ殺害された。 犯人とされた久間三千年は逮捕・起訴され、死刑判決確定からわずか2年後、再審請求の準備中に死刑執行される。 冤罪を主張し続け、自白がない状態での刑執行のスピードに唖...
本を閉じ深い溜息が出た。 1992年、福岡県飯塚市で小学1年生の女児二人が登校中に何者かに連れ去られ殺害された。 犯人とされた久間三千年は逮捕・起訴され、死刑判決確定からわずか2年後、再審請求の準備中に死刑執行される。 冤罪を主張し続け、自白がない状態での刑執行のスピードに唖然。 「飯塚事件」の3年ほど前に起きた女児失踪事件が未解決だった事で警察に焦りがあったのではないのか。 警察が威信を掛け犯人逮捕に全力を注ぐ姿勢に共感する一方で、思い込み捜査や記憶の改ざんで冤罪が作られていく恐怖も感じた。 真相は未だ藪の中だ。
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NHK BS1スペシャル、正義の行方飯塚事件30年後の迷宮、を見て非常に印象に残っていたので、本書を読むことになった。 殺人犯とされた死刑囚が、死刑終了後に洗剤ではないかと最新請求がなされ、最高裁により棄却され、死刑が確定した事件であるが、様々な関係者の取材を通して、迷宮のような...
NHK BS1スペシャル、正義の行方飯塚事件30年後の迷宮、を見て非常に印象に残っていたので、本書を読むことになった。 殺人犯とされた死刑囚が、死刑終了後に洗剤ではないかと最新請求がなされ、最高裁により棄却され、死刑が確定した事件であるが、様々な関係者の取材を通して、迷宮のような事件の中、様々な正義がぶつかり合い、どこに政治が存在するのか、考えさせられることが多かった。 そもそも以前から、正義と言う言葉には素直に受け取ることができないことばかりだと思っていた。現在のソ連ウクライナの戦争、パレスチナの戦争、あるいは第二次大戦時の日本の戦争に進む姿勢、最近見学した満蒙開拓団、平和記念館の印象など、正義と呼ばれる言葉には、非常に不愉快な気持ちにならざるを得ない。
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nhkのテレビに無かった話も少し加わった内容になっていた。やはり元刑事の話には?だった。 「私は早く辞めるために無理な捜査をするというのが持論よ。刑務所の塀の上を歩いてね内側に落ちちゃいかん外側に落ちるというようなね。違法捜査じゃないギリギリのところをね。」 違法でないなら早...
nhkのテレビに無かった話も少し加わった内容になっていた。やはり元刑事の話には?だった。 「私は早く辞めるために無理な捜査をするというのが持論よ。刑務所の塀の上を歩いてね内側に落ちちゃいかん外側に落ちるというようなね。違法捜査じゃないギリギリのところをね。」 違法でないなら早く辞めることにはならないのではないかな?よくわからない言葉だ。DNA鑑定についても科警研の鑑定の検証していた石山教授の結果DNAが出なかったのではなくて検査材料が少ないから上手く検査が出せなかったのではないかと聞き返しそうだと言わせそれで逮捕につなげるとは。検証できなかったなら余計慎重になるべきだと思うが慎重さが足りないな。しかし石山教授は鑑定には自信を持っているし本当は圧力が國松元長官からあったと法廷でも話しておりひどい話だと思う。そもそもものすごく感度の高いミトコンドリアDNA鑑定で出てないのだからくまさんの血液の混入はなかったということだ。 テレビでは記者がどういう状況だったか説明している時映像もあり理解できたが本だとDNA鑑定もそうだが言葉だけでは理解しにくいのではないかと感じた。くまさんが運転している映像がテレビではあり、行き過ぎた取材があったのではないかくまさんが犯人で間違いないという街の空気があったのではないかと想像される場面もテレビの方が感じられやすいな。
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映画をみて、本も購入。 関わった警察官、弁護士、新聞記者、そして「被告」の家族の視点から飯塚事件をみる。信念?が揺らがないほどおそろしいことはないのかもしれない。 それにしても西日本新聞の懐の深さというか、事件への真摯な姿勢が心に刺さる。自分たちの報道姿勢がはたして「正しかった...
映画をみて、本も購入。 関わった警察官、弁護士、新聞記者、そして「被告」の家族の視点から飯塚事件をみる。信念?が揺らがないほどおそろしいことはないのかもしれない。 それにしても西日本新聞の懐の深さというか、事件への真摯な姿勢が心に刺さる。自分たちの報道姿勢がはたして「正しかった」のかを、その時の報道、取材に関わっていない記者を指名して、当時の報道の在り方、そして、もう一度飯塚事件そのものを検証するという姿勢がすごいなと思った。 人は揺らぐ。でもその揺らぎ、疑念、本当にあれでよかったのかと思えることがとても大切なのではないかとも思うのだ。 「正義」は、時に暴走するものなのかもしれない。 それにしても死刑という刑の重さをひしひしと感じた。 執行を決める基準は何なのか。死刑という刑罰は本当に必要なのか、わからないことばかりであることが恐ろしい。
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有名な冤罪死刑執行疑惑事件を扱ったNHKドキュメンタリーの書籍版。 有名事件ゆえに本書以外の該当事件書籍や、多数のYouTube動画があり、それらを元に比較検証しやすい事件。本書のAmazonレビューの指摘によると、「本書は再審弁護団の主張に寄りすぎている」とのこと。指摘について...
有名な冤罪死刑執行疑惑事件を扱ったNHKドキュメンタリーの書籍版。 有名事件ゆえに本書以外の該当事件書籍や、多数のYouTube動画があり、それらを元に比較検証しやすい事件。本書のAmazonレビューの指摘によると、「本書は再審弁護団の主張に寄りすぎている」とのこと。指摘について詳細な検証は出来ないが、ひっかかる部分が一つあった。それは本書に記載されている事件の捜査員(元刑事)のインタビューが口語で書かれていること。博多弁の口語。これがほとんど発言ママで文字起こししたものをそのまま文書化されている。これがかなり読みづらく、そして「乱暴で粗野な人物の発言」な印象を受けた。「正確な発言の記載」をつとめたとも言えるが、「冤罪証明に有利な証言者(事件現場の証言者や弁護団)」のインタビューの方はそうなっていないのが不公平かなと思う。 ノンフィクション(ドキュメンタリー番組)としては、ちょっと珍しい展開の内容ではあった。事件経過、裁判経過、死刑執行時の情勢などが順に書かれ、後半で西日本新聞の再検証報道の担当者インタビューになる。ここで「有力な犯行車両の目撃者を特定してインタビューに成功した時のこと」の話になる。ここで出てくる目撃者が報道担当者の狙いとは裏腹に、目撃事実の信用性を増してしまう。この部分で「やはり冤罪の可能性は低いのでは?」と感じた。 あと、この事件の情勢にあの國松長官が関わっていたというところは興味深かった。報道担当者は國松氏へのインタビューにも成功している。
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