キャラメル工場から の商品レビュー
同じ思想のもとに集まった仲間の内にも歴然とある男女の格差。それを見つめる著者の鋭い目は、時に自分自身にも厳しく向けられる。と同時に、貧しさや暗い過去を抱えて生きる市井の人々を肯定的に描く強さやあたたかさも持ち揃えている。どの作品も最後の余韻が深く、どこまでも静かに響いてくる。
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短篇集。敗戦の影がどの作品にも暗くのしかかっている。発表順に並べられているので、愚かで醜い戦争が行われようとする気配が漂うときから、戦中に戦地を慰問したとき、敗戦後に戦争協力者として批判され続けるなかで自省していく過程が手に取るようにわかる。そのような編集をされた佐久間文子さん...
短篇集。敗戦の影がどの作品にも暗くのしかかっている。発表順に並べられているので、愚かで醜い戦争が行われようとする気配が漂うときから、戦中に戦地を慰問したとき、敗戦後に戦争協力者として批判され続けるなかで自省していく過程が手に取るようにわかる。そのような編集をされた佐久間文子さんの編者解説も素晴らしい。一番こころに響いたのは、佐久間さんが「異色作」と解説で述べている『乾いた風』。戦争というものが、一見善良な人々を、どれだけ醜く悲しく卑小な存在に貶めるかを、この短編小説は教えてくれる。
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とっても良かった。佐多稲子さんの文庫本を探していたので、書店で見つけてすぐ買いました。僕はとても好きです。
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本書に収録されている「水」は、何かのアンソロジーで読んだことがあった。「ハハキトクスグカへレ」の電報を受け取っても、働き先から暇をもらえないでいるうちに母は亡くなってしまう。田舎に戻る汽車を待つ間ホーム横で泣き続ける主人公の母への思いが痛々しい。移動のため歩き出した彼女は、出し...
本書に収録されている「水」は、何かのアンソロジーで読んだことがあった。「ハハキトクスグカへレ」の電報を受け取っても、働き先から暇をもらえないでいるうちに母は亡くなってしまう。田舎に戻る汽車を待つ間ホーム横で泣き続ける主人公の母への思いが痛々しい。移動のため歩き出した彼女は、出しっ放しになっていた水道の蛇口を無意識のうちに締め、そしてまた泣き続ける。主人公の生き方や性格といったものを、この短い文章のうちに鮮やかに描き出しているのが見事だ。 プロレタリア作家ということで文学的にはどうなんだろうと何とはなしに敬遠してしまっていて、著者の作品をまとまって読むのは本作が初めて。 デビュー作の「キャラメル工場から」。13歳の少女が家計を助けるために、キャラメル工場に働きに出される。慣れない仕事の大変さや、雇い主の工員への横柄な態度などが、少女の目を通してリアルに描かれる。小学校だけは卒業する方がよかろうという郷里の先生からの手紙を、新たな仕事場で読みながら泣く彼女の姿が切ない。 そのほか、戦争によって人生が変わってしまった人々や、地下活動、さらに戦中の戦地訪問が後に戦争協力と批判されることになってしまったことを語った作品など、デビュー作から晩年に至る名短編が収録されている。 作者はいろいろな人と出会い、時を経て再会し、思いを新たにする。やり取りを通して、作者の気づいた思いが描かれるのだが、語らたこと以上に語られないことの中にある”重さ”を、読む者は感じるのでないだろうか。 作者の弱い人へ向けるあたたかな眼差しを感じるとともに、作者の凛とした姿勢が文章から立ち上ってくる。
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出版社(筑摩書房)ページ https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480439406/ 短編集(佐久間文子編)
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工場やカフェー、料亭、戦場、地下活動・・・とに身を置きながら昭和の時代を生きた市井の女性たちを描いた短編集。沈鬱な気分になる作品が多かった。作中の人たち、悲しみとか諦めを抱えながらも誇り高く生きていたのだろうな。
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