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恐るべき緑 の商品レビュー

4.1

13件のお客様レビュー

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2024/08/16

20世紀に活躍した科学者たちを題材にとった連作小説です。フィクション分が多め、というのは作者の後書にあった。科学の発展の負の側面に焦点が当てられており、全体として雰囲気は暗い。それでも明るい未来が待ってたらいいのにな、と思いました。

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2024/08/11

ものすごくおもしろかった。実在の科学者たちの研究と功罪とゴシップ色をまとうプライベートがただただ列記されていき、読むと科学の進歩をなぞることができる。書きぶりはまるで取材ノートかドキュメンタリーのような素っ気なさだし舞台は科学技術だし、とっつきにくいはずなのに冒頭から惹き込まれて...

ものすごくおもしろかった。実在の科学者たちの研究と功罪とゴシップ色をまとうプライベートがただただ列記されていき、読むと科学の進歩をなぞることができる。書きぶりはまるで取材ノートかドキュメンタリーのような素っ気なさだし舞台は科学技術だし、とっつきにくいはずなのに冒頭から惹き込まれてしまう、不思議な文体だった。アインシュタインが量子力学をまったく理解できなかったエピソードがおもしろい。とはいえノンフィクションではなく、主にプライベートの部分について作者の創作が大いに混ぜられているらしいので読み方には注意が必要。 エピローグが唯一とても不穏で文学的で、詩的なタイトルの意味がここでわかる。表紙のデザインも素敵

Posted byブクログ

2024/08/05

著者は、オランダに生まれ、その後、アルゼンチンやペルーで暮らし、両親の祖国であるチリに移住した。大学ではジャーナリズムを専攻し、無名詩人に師事したこともある。 母語はスペイン語。本作は原語での出版年に英訳され、オバマ元米大統領が注目するなど、各所で高評価を受け、国際ブッカー賞の最...

著者は、オランダに生まれ、その後、アルゼンチンやペルーで暮らし、両親の祖国であるチリに移住した。大学ではジャーナリズムを専攻し、無名詩人に師事したこともある。 母語はスペイン語。本作は原語での出版年に英訳され、オバマ元米大統領が注目するなど、各所で高評価を受け、国際ブッカー賞の最終候補にもなったという。 20世紀、休息に発展を遂げた物理化学・天体物理学・数学・量子力学の何人かの巨人たちにまつわる物語5編。 「プルシアン・ブルー」は、青酸カリ・青色顔料・毒ガス兵器を巡る物語。表題の「恐るべき緑」は本作から採られている。毒ガス開発者のハーバーは、空中からの窒素固定を可能にした人物である。これは化学肥料の開発につながった。ハーバーが後悔するならば、大量破壊兵器となった毒ガス(特にツィクロンBは彼の同胞たる(ハーバーはユダヤ教からプロテスタントに改宗しているので、正確には「かつての同胞」かもしれないが)ユダヤ人の大量虐殺に使用された)の開発であるだろうと思うところだが、本作ではそうではない。窒素固定により、自然の均衡を崩し、野放図に成長する「恐るべき緑」を生み出してしまうことを恐れていたというのだ。 「シュヴァルツシルトの特異点」。シュヴァルツシルトはブラックホールの存在を示唆した人物。彼がアインシュタインの重力方程式から導き出された解は不思議な現象を予測していた。従軍中だった彼は、アインシュタインに手紙を送り、アインシュタインが代わりに学会発表した。ブラックホールの存在が証明されるのはずっと後のことである。 「核心中の核心」。不世出の数学者グロタンディークと、日本人数学者、望月新一の人生が交錯する。双方ともなかなかの変人ぶりだが、特に望月に関しては、大半がフィクションであると著者自身が認めている。 「私たちが世界を理解しなくなったとき」。英訳版ではこちらが全体のタイトルとして採用されている(”When We Cease to Understand the World”)。個人的には、タイトルとしてはこちらの方が作品群全体を象徴する、ふさわしいものであったように感じる。量子力学黎明期を作った、ハイゼンベルク、ド・ブロイ、シュレーディンガーの物語。結核を患うシュレーディンガーが療養所で過ごす箇所、少々唖然とする展開なのだが、勢いで読まされてしまう。量子力学の「捉えづらさ」はよく表されているようにも思うが、科学者ら自身はもう少し違う感覚だったのではないかという気もする。 「エピローグ 夜の庭師」は、これまでの作品と現実をつなぐような1編。著者を思わせる語り手と元数学者の庭師の語らいと思索。 発想は時に奔放すぎるほどに羽ばたき、どことなく詩的である。実在の人物が登場するが、評伝ではもちろんない。科学者らの業績をある程度踏まえた上での、イマジネーションの世界である。 奇妙な味といってもよいのだろうが、そこにはペシミスティックな風味が混じる。これは題材となった科学者らに付随するというよりは、著者が内包するもののように思う。

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2024/07/27
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すごく面白かった。文章が詰まっていたが、読みやすく、専門的なことはあまり詳しくはないけれど、史実の部分に関しては、以前見たNHKスペシャルや他の番組のおかげで想像しやすかった。 タイトルの恐るべき緑とは、毒ガスのことだと思うけど、もう一つ妻へ残した手紙にある、植物が異常増植して〜のところが、現実とは乖離していて面白い。 天才とか頭の良い人には、その人にしかわからない苦悩があるのだなと思った。 「私たちが世界を理解しなくなったとき」とは、まさに現在のことで、仕組みもわからないのに便利に使っているスマートフォンやAIについて、それまでのように、発明されたものや方法には良い面と悪い面があるのだという教訓を心に、もっとその仕組みに興味を持ち、理解を深めるべきだと思いました。

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2024/08/11

世界的な発明、発見をした人たちのエピソード。 一つ一つの人生は異なるのに、メッセージ性がある書き方で、心に残る。 マックスハーバーは毒ガスを戦争で使った。でも、それは本来殺虫剤として発明したものだった。そして彼の親族がその毒ガスでユダヤ人として殺された。 また、彼は肥料を作り、そ...

世界的な発明、発見をした人たちのエピソード。 一つ一つの人生は異なるのに、メッセージ性がある書き方で、心に残る。 マックスハーバーは毒ガスを戦争で使った。でも、それは本来殺虫剤として発明したものだった。そして彼の親族がその毒ガスでユダヤ人として殺された。 また、彼は肥料を作り、それによる食料増産でもっと多くの人の生存を可能にしていたという話。 世紀の大発見をして、アインシュタインを驚かせた研究者は、アインシュタインが返事を書くときには戦場で死んでいた。 偉大さと、無差別な残酷さが無秩序に入り混じる。この理不尽さと儚さは、手塚治虫の火の鳥っぽいかも。 印象的な短編集。

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2024/07/10

事実とフィクションの区別が難しい 自分に科学の知識があったらもっと面白いと思う 面白いっていうよりなんか凄いって感想

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2024/07/02

どれも戦争の影を避けられない実在の科学者たちのエピソードを伝記的に語りながら詩的にフィクションの部分を織り交ぜていく。プルシアンブルー、シュヴァルツシルトの特異点、核心中の核心の前半三作品の濃密にコンパクトな感じが好み。

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2024/06/27
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

恐るべき緑って、タイトルがもうなんだか普通じゃない感。どういうこと?と思っていたらどこかの新聞で書評を見かけなんだか不思議な内容のよう、と手に取り。  いや、確かに恐るべき緑だった。中学校の時に実験で作った塩素が得も言われぬ緑(薄いバスクリン的な?)に見えたことを思い出しました。その一編を読んで本書の表紙を見たら「もくもく」が恐ろしく見えました。 5つの章立てですが、話の内容として この順番しかなかったでしょう。最初の「プルシアン・ブルー」が本書はこういうテイストの物語ですよという導入としても話の内容としても面白くて自分は良かった。 フィクションがかなり入っているとのことで訳者あとがきを読んで「そこもフィクションなの?」と驚く箇所が散見。事実とフィクションがうまく融合されていると思いました。 文章としての面白さというより、素材の選択や(科学者や数学者について)その人物や功績、挫折や理数学界の状況の描き方などが興味深かった。変わったテイストの小説で今まであまりなかったスタイルなのは間違いないと思われます。 「シュヴァルツシルトの特異点」はブラックホールの話だよね?と思いつつ最後までそう書かないんだなぁともやっとしました。 「私たちが世界を理解しなくなったとき」は読んでいて以前読んだ「量子革命(新潮社)」を思い出しましたが、謝辞で著書が手に取っていたことがわかりました。この短編に興味を持たれた人にはきっと面白く読めると思うのでお薦めします。 万人受けする物語ではないと思いますが、異色の外国文学として時々はこんなテイストも面白いと思える一冊でした。

Posted byブクログ

2024/05/25

かなり面白い本だと思うが、小説でもありサイエンス本でもあり、ノンフィクションのようでもある不思議な本。フィクションなんだが、不思議な味わいがある。似たような本が思いつかない。しかもタイトルの意味が全く分からない(笑)オススメ。

Posted byブクログ

2024/05/19

『一九三四年、フリッツ・ハーバーはバーゼルで、冠動脈を拡張するための注射器を握り締めながら死んだ。それから数年後に、彼が開発に協力した殺虫剤がナチのガス室で使用され、彼の異母妹と義弟と甥たち、その他大勢のユダヤ人が殺されることになるとも知らずに』―『プルシアン・ブルー』 吉川晃...

『一九三四年、フリッツ・ハーバーはバーゼルで、冠動脈を拡張するための注射器を握り締めながら死んだ。それから数年後に、彼が開発に協力した殺虫剤がナチのガス室で使用され、彼の異母妹と義弟と甥たち、その他大勢のユダヤ人が殺されることになるとも知らずに』―『プルシアン・ブルー』 吉川晃司の抑制の効いた低い声の語りで科学史の闇の部分に焦点を当てたあの番組と似たような本かと思って読み進めると、作者の仕掛けた罠にまんまと嵌まることになる。その仕掛けについては作家ベンハミン・ラバトゥッツ自らが謝辞の中で述べているので敢えて記さないことにするけれど、望月新一とアレクサンドル・グロタンディークの人生が交錯する下りを読んで、一瞬、背筋に寒気が走り、あれ?と思ったということは書いておこう。 科学史に名を遺す知の巨人たちを登場させた小説は、恐らく枚挙に暇がないだろうけれど、個人的に一冊挙げるとするなら「ケンブリッジ・クインテット」。本書にも登場するシュレーディンガー、チューリング(ちらりと出て来るだけだが)の他、物理学者C・P・スノウ、哲学者ヴィトゲンシュタイン、遺伝学者ホールデインの五人が人工知能の可能性について語り合うという小説。チューリングはもちろんのこと、他の登場人物たちも各々言いそうなことを架空の晩餐の席上で言い合うところが面白い。当然のことながら、読者はそんな機会はなかっただろうと思いながら、それでも、ひょっとしたら起こり得たかもしれない会話を愉しむことになる。一方、本書「恐るべき緑」は、登場人物たちの人生を足早に辿りながら、見過ごされた事実を拾い上げ、それを脚色して物語を紡ぐ。読者は、そんなことはあり得ないだろうと思い(願い?)つつも、その筆致に惑わされ、つい本当にそんなことがあったのかと何度も逡巡しながら読み進めることになる。その感覚を敢えて言うなら、戦慄、という言葉が相応しいかも知れない。 科学が宗教に取って代わって人々の生きる上での支え(それはある意味で信仰と呼んでもいいと思うのだが)となり、それが余りにも当たり前の世の中であることに何の違和感も覚えない状態を凶弾するのが本書の主たる意図ではないだろうけれど、「フランケンシュタインの誘惑」で吉川晃司の語りによって明かされた科学者たちの行為や作為に驚愕するのと同様の衝撃は本書からも受ける。特に第一章「プルシアン・ブルー」は、事実の羅列とそこから派生する出来事の交錯を執拗に追いかける物語で、ドキュメンタリーの様相が強く、尚更だ。科学技術が悪い訳ではない、それをどう使うかの問題だ、とは言うものの、何処かで、その扉を開けていなければ、という思いが湧くことは否めない。知の扉を開け続け、蒙を啓くことで、果たして叡智と呼ばれるものを得るに至るのか。それに対するやや負の感情を作家の筆致から感ざるを得ないのも事実だが、窒素を求めて先人たちが墓を暴くことまでしていたことを知ると、知が人間性を、あるいは少なくとも人間性について考える余裕を手に入れ足らしめたことも確か。もちろん、単純に白黒判定が付くような話でもないけれど、そんなことをあれこれと考えてしまう一冊ではある(とは言え、本書は決して啓蒙書の類ではないのだが)。 エピローグは、恐ろしい話をあれこれと聞かされてすっかり消沈した者に語り掛けるかのような一章となっているが、そこで、はたと作家の意図(問い掛け)が見えてくる。さて、こんな風に問われたら、何と答えるべきなのだろう。それを考え続けることが、取り敢えずは重要なことだと判ってはいるつもりだけれど。 『ついこの間、夜の庭師から、柑橘系の樹木がどんなふうに枯れるか知っているかと訊かれた。干ばつや病気に耐え、疫病や菌類や害虫の無数の攻撃を生き延びたとしても、老齢を迎えると、過剰さによって滅びてしまうのだ。ライフサイクルの終わりに差しかかると、木は最後に大量のレモンを実らせる。(中略)不思議だね、と彼は言った。(中略)そのような恐ろしい豊饒のスペクタクルは植物のものには思えない、むしろ際限もなく制御不可能な成長を遂げる我々自身の種の過剰さに似ている。僕は彼に、我が家のレモンの木の寿命はあとどれくらいか尋ねてみた。彼は、少なくとも幹を切って年輪を見る以外にそれを知る方法はないと言った。でも、誰がそんなことをしたいと思うだろう?』―『エピローグ 夜の庭師』

Posted byブクログ