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この村にとどまる の商品レビュー

4.3

12件のお客様レビュー

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2024/08/14

水面にポツンと突き出た教会の鐘楼。 なぜこの風景はここにあるのか、 どうしてこうなったのか……。 抗うことの無力さ、 それでも前を向く力強さ、 物語としてこの風景を語ることで、様々な想いを水面に映すことになる。 「神さまは前だけを見るために、両目とも前に着けた」 新潮クレ...

水面にポツンと突き出た教会の鐘楼。 なぜこの風景はここにあるのか、 どうしてこうなったのか……。 抗うことの無力さ、 それでも前を向く力強さ、 物語としてこの風景を語ることで、様々な想いを水面に映すことになる。 「神さまは前だけを見るために、両目とも前に着けた」 新潮クレスト・ブックスらしい一冊でした。

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2024/07/15

第二次世界大戦の後にダム湖に沈んだ北イタリアのチロル地方のクロン村に想いを馳せて、作者がそこに住む家族の来し方を創作した小説である。 おそらく表紙の写真は、ダムに沈んだ村の教会の鐘楼。美しい村だったというが、その写真の美しさからさぞかし、と想像できる。 ドイツ語を話す地域で、ド...

第二次世界大戦の後にダム湖に沈んだ北イタリアのチロル地方のクロン村に想いを馳せて、作者がそこに住む家族の来し方を創作した小説である。 おそらく表紙の写真は、ダムに沈んだ村の教会の鐘楼。美しい村だったというが、その写真の美しさからさぞかし、と想像できる。 ドイツ語を話す地域で、ドイツとイタリア双方に翻弄された村人、自分たちの美しい村を有無を言わさず沈められた人々。 その消えた人々が、どれほどの過酷な人生を強いられたか、小説で甦らせたマルコ・バルツァーノという作家の良心に打たれる。 地球上の隅々に人々の営みがある。 途方もない事実にクラクラする。

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2024/06/05

北イタリア・チロル地方のドイツ語圏の小さな村クロン村に暮らすトリーナは、友人たちと教師になることを望む平凡な女の子だった。しかし、ちょうど学校を卒業した頃、村はムッソリーニ率いるファシストなイタリアに併合され、イタリア語を強制される。やがて、戦争が始り今度はナチズムが村を取り囲む...

北イタリア・チロル地方のドイツ語圏の小さな村クロン村に暮らすトリーナは、友人たちと教師になることを望む平凡な女の子だった。しかし、ちょうど学校を卒業した頃、村はムッソリーニ率いるファシストなイタリアに併合され、イタリア語を強制される。やがて、戦争が始り今度はナチズムが村を取り囲む。加えて、電力発電のためのダムが建設され、村は湖底に沈むことになる。 トリーナが、イタリア化を強制される過程で生き別れとなった娘に宛てて書いた手紙という形で物語は進む。 次々と襲う過酷な環境。夫エーリヒと共に歩んだトリーナの人生は感銘を与える。 村の教会の鐘楼だけが湖の上に現れている風景は、モデルとなった実際の湖があるそうだ。

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2024/06/03

イタリア北部にある、ドイツ語圏の小さな村に起こった出来事をベースにした物語。 ファシズムの波に押されて母国語を失い、ヒトラーの移住政策で分断、湖に沈んだ村。そこで生きるトリーナの半生。→ 生まれ故郷に対する愛着を持たない私にはエーリヒの気持ちはわからないし、娘がいない私にはトリ...

イタリア北部にある、ドイツ語圏の小さな村に起こった出来事をベースにした物語。 ファシズムの波に押されて母国語を失い、ヒトラーの移住政策で分断、湖に沈んだ村。そこで生きるトリーナの半生。→ 生まれ故郷に対する愛着を持たない私にはエーリヒの気持ちはわからないし、娘がいない私にはトリーナの気持ちはわからない。 でも、エーリヒが戦争はもう嫌だ、という気持ちはとてもわかるし、息子ミヒャエルがヒトラーに心酔してドイツ軍に入隊するという時に何も言えないトリーナの気持ちもわかる→ その辺りが読んでいてとても辛くて、歴史を知る者として息が詰まる気持ちだった。 ダムも戦争も、結果を知っているからこそ作中の彼らの感情に揺さぶられる。 そして、クライマックスは何度も本を閉じて装丁を見た。 面白いか否かはわからないが、読んで良かったとは思う、そんな物語。

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2024/05/20

オーストリア、イタリア、スイス三国の国境沿いにあるレジア村を舞台にした作品。オーストリア帝国時代は国境なぞを意識せずに自由に行き来した村人たちが、帝国の解体後、イタリアに編入され、ムッソリーニの同化政策に抗う。その後、ナチスドイツによってドイツ領になり、ドイツへの移住、もしくはイ...

オーストリア、イタリア、スイス三国の国境沿いにあるレジア村を舞台にした作品。オーストリア帝国時代は国境なぞを意識せずに自由に行き来した村人たちが、帝国の解体後、イタリアに編入され、ムッソリーニの同化政策に抗う。その後、ナチスドイツによってドイツ領になり、ドイツへの移住、もしくはイタリアへの帰属を迫られる。ナチスの迫害から逃れる逃避行は本書の山場の一つを成している。ついにファシズムとナチスからの迫害から逃れたと思った戦後、今度は資本主義の力によって村はダム底に沈められる。何たる悲劇と思うのだけれど、村人たちは想像するほどに抵抗せずに、徐々に現実に屈服していく。そこには意思を持った主体は登場せず、工事を遂行する帽子を被った現場の責任者しか登場しない。巨大な権力、官僚機構を前にしたときの抵抗運動の虚しさたるや。徐々に村人たちが分断され、村から離れる様などは、福島や、いま能登半島・輪島などで現在進行形で進んでいる話であり、決して他人事ではない。 現代のレジア湖の写真がGoogle MAPで見られるけれど、非常に美しく教会の鐘楼だけが昔の村の存在を主張しているように見える。ウィンドサーフィンをしている人の姿も見られ、レジャー産業が村の収益源となっていることも伺える。過去を悼みながら一度は訪れてみたい場所である。

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2024/05/10

生き別れになった娘に語り聞かせるように、事実が淡々と描かれているにも関わらず、情景が鮮明に浮かび上がるようだった。国境が近い村で穏やかな暮らしが破壊され平穏が奪われていく様は胸が苦しくなった。壮絶な経験をしながらも歩みを止めず、前に進むトリーナという女性の強さに救われる。

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2024/04/30

 静かな語り口で物語は始まる。静かな語り口に反比例するかのように、のちに続く物語への期待感は膨らむ。  もともとオーストリアにルーツがありドイツ語を母語としているが、第2次世界大戦の頃にはイタリア領として線引きをされた小さな村が舞台だ。  戦時下にあってはイタリア派・ドイツ派...

 静かな語り口で物語は始まる。静かな語り口に反比例するかのように、のちに続く物語への期待感は膨らむ。  もともとオーストリアにルーツがありドイツ語を母語としているが、第2次世界大戦の頃にはイタリア領として線引きをされた小さな村が舞台だ。  戦時下にあってはイタリア派・ドイツ派により村に対立が生まれ、さらにダム建設を巡り完全に分断される。戦争の混乱、ダム建設の混乱にあって、娘を手放し、また息子はナチス兵として偏狭的な思想に囚われてしまう。この時代に生きた主人公夫婦の生活と人生が描かれている。  人生って誰のものだろう?個人のもののようで、時代のものかもしれない。じゃあ、時代ってなんだ?為政者が作り出す空気かもしれない。  ダム建設に反対していた主人公たちの活動の甲斐なく、村はダムに飲み込まれてしまう。  物語を読みながら、表紙の写真を何度も見返す、こんな読書経験は初めてだ。  読者である僕の心は完全に物語の中にあったんだと思う。涙がボロボロと止まらない

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2024/04/10

戦争も、出ていった娘も、すべての悲しみはダムの中に沈む。 神は、それでも前を向くために、両の目を正面に付けたのだから。

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2024/04/06

表紙の水に浮かぶ教会の鐘楼は、物悲しく美しい。舞台はファシズムとナチズムによって分断される北イタリアの小さな村。ダムに沈んだ村の歴史(史実)は悲しく、主人公の女性トリーナの半生の物語は残酷だが、運命に抗い常に前を向いて生きたトリーナは勇敢だった。トリーナが失ったものは、生き別れに...

表紙の水に浮かぶ教会の鐘楼は、物悲しく美しい。舞台はファシズムとナチズムによって分断される北イタリアの小さな村。ダムに沈んだ村の歴史(史実)は悲しく、主人公の女性トリーナの半生の物語は残酷だが、運命に抗い常に前を向いて生きたトリーナは勇敢だった。トリーナが失ったものは、生き別れになった愛娘、親友だけではない。新しく生き直すためには、大切にしてきたものも捨てなければならなかった。夫を支え生き延びた。そしてこの村にとどまった。 とても重厚で感動的な忘れがたい一冊。

Posted byブクログ

2024/04/04

やっぱり、関口英子訳にハズレなし、だった。ダムに沈もうとしている村、奪われた母語、戦争、出て行った娘…。誰にもそれぞれ苦しみはあるけれど、そうだよね、私たちが前に進むよう、神様は前に目をつけた。静かで小さい、だけど確かに存在した人々。

Posted byブクログ