屍衣にポケットはない の商品レビュー
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ホレス・マッコイ初読。 作風自体が良い意味で乱雑。美しく伏線を回収する、そんな趣味をお持ちの読者はおそらく不満だと感じる。思わせぶりな女性登場人物が、思わせぶりなまま最終ページを迎える等々、ある意味笑えて来る。 「自伝的」という自著解説が存在するそうな。なるほどそう聞かなければ理解できない挿話もあるので、このあたりをどう味わうかによって評価が真逆に変わるのではないか?
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地方紙の記者ドーランが主人公。地元の悪を暴く記事がことごとくボツになる事に義憤を感じて1人雑誌社を創刊、告発記事を発表する事で読者を増やしていく。1930年代なので差別的な表現や下品なエロ描写も多いが、地位や権力に忖度するのは現代と変わらずで今読んでも違和感はない。巨悪な団体の悪...
地方紙の記者ドーランが主人公。地元の悪を暴く記事がことごとくボツになる事に義憤を感じて1人雑誌社を創刊、告発記事を発表する事で読者を増やしていく。1930年代なので差別的な表現や下品なエロ描写も多いが、地位や権力に忖度するのは現代と変わらずで今読んでも違和感はない。巨悪な団体の悪事をもっと描きこんで欲しかった。
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主人公の怒りが物語のエネルギーとなって最後まで疾走する。 これは著者の怒りか。 光明は見えないが、不思議と暗さはない。
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超★5 まさに文春砲! 破天荒な記者が大暴れする犯罪小説&社会派スリラー #屍衣にポケットはない ■あらすじ 1930年代アメリカ、新聞記者だった主人公ドーランは会社の方針と体制に異を唱えて退職する。その後彼は、自分のやりたい報道をやるために自ら雑誌を刊行、街では多くの読者を獲...
超★5 まさに文春砲! 破天荒な記者が大暴れする犯罪小説&社会派スリラー #屍衣にポケットはない ■あらすじ 1930年代アメリカ、新聞記者だった主人公ドーランは会社の方針と体制に異を唱えて退職する。その後彼は、自分のやりたい報道をやるために自ら雑誌を刊行、街では多くの読者を獲得してゆく。しかし報道する記事は、街の権力者や有名人の隠された秘密を暴くものであったため、様々な方面から圧力をかけられてしまい… ■きっと読みたくなるレビュー 超★5 これはおもしろい~ 原作は第一次大戦と第二次大戦の間、1930年代に書かれた物語ですが、90年後の現代で読んでみても十分に理解できるし、楽しんで読むことができます。いやむしろ、文春砲だの、切り抜き記事だの、SNSでの心無い誹謗中傷だの… 寛容になれない人間どもでいっぱいな現代こそ、読むべき作品だと思いましたね。 まず何より言いたいのは、主人公ドーランのキャラクター。真実を報道するためだったら、マジでどんなことでもするアツい男。というより、狂った男と言ったほうが近い… しかもシモのほうは品がないし、金にだらしないし、犯罪スレスレで人間性を疑うような言動ばっかりだし、サイテーと言ってもいい。でもモテるんだから意味がわからん。 しかしこのクレイジーな人間性に惹かれてしまうのはよくわかる。曖昧な善悪をはっきりさせたり、悪しき慣習にナイフを突き刺しにいくなんて、生命力に溢れているに違いないです。 特に終盤の本書タイトルに関連するセリフを言い放った場面は、カッコ良すぎてマジ漏れそうでした(無鉄砲すぎてアホだなとも思ったのも事実なんですが)。ただこういった狂犬たちが社会を少しずつ変化させていくんでしょうね。 また本書は文章をつむぎ出しやセリフ回しが独特で素敵なのよ。古い映画のナレーションや会話を見ているようで、オールディーズに浸れる浸れる。ドギツイ洒落や女性とのナイトタイムの駆け引きなんかはニマニマが止まりませんでした。 そしてこの物語の終盤はどうなってしまうんだ? ヒヤヒヤワクワクで読み進めてゆく。粗暴ながら真実を暴くという自分の信条を貫いた彼に、幸せや勝利は訪れるのか… 鋭利で重厚な結末、そして長い長い余韻が待っていました。私がもっとも好きなエンディングでしたね。 犯罪小説でもあり、スリラーでもあり、勧善懲悪でもある、超ド級なエンタメ小説です。今年読むべきミステリーの一冊です。 なお本書の解説は書評家の杉江松恋先生ですが、研究論文ともいえる内容で素晴らしかったです。オマケともいえる解説にも関わらず、まぁ読ませる読ませる。歴史、作家、作品はもちろん、社会背景の考察も深いし、文芸としての解釈もめっちゃ参考になりました。これだけの情報整理とコクのある解説を書ける人、先生以外に日本にいないと思うわー。大変勉強になりました。 ■ぜっさん推しポイント ゴシップ誌やネット記事など、世の中にあふれている歪んだ正義感。巨悪にメスを入れることで弱い者が救われることもあるでしょうが、これが正しい形なのか賛否両論があると思います。ペンを動かして情報を伝えることに、どれほどの覚悟と狂気が必要なのか。そして情報を読んだ我々も、その後どういった行動していくかが重要なんだと思いました。
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地方紙の記者マイク・ドーランは真実を暴く報道よりも広告収入を重視して忖度する会社の体制に怒り編集長と喧嘩して辞職。自ら雑誌を創刊して告発記事を次々と発表、大きな評判になる。しかし大手新聞社からの圧力、資金難、町の有力者からの嫌がらせなど多難が続く。政治的信念もなくただ倫理感だけで...
地方紙の記者マイク・ドーランは真実を暴く報道よりも広告収入を重視して忖度する会社の体制に怒り編集長と喧嘩して辞職。自ら雑誌を創刊して告発記事を次々と発表、大きな評判になる。しかし大手新聞社からの圧力、資金難、町の有力者からの嫌がらせなど多難が続く。政治的信念もなくただ倫理感だけで怒りを爆発させるドーランは抑制が効かずどんどん突き進む。しかし社会が腐り切っているのか、目指すゴールを持たないドーランが無謀なのか。 ドーランは不正に対してやみくもに怒りをぶつける。フェアじゃないことに爆発させる怒りは仲間に、普段嫌っている共産主義者と同じだと揶揄されもする。 この怒りはどこから出てくるのか。ドーランは自分の育った環境に不満がある。その歪みが歯止めの効かない怒りを暴走させる。その怒りは死をも辞さない。今の時代にも似たような人がいるような。遺体に着せる屍衣にポケットはない。あの世には何も持っていけない。そして決して幸せなラストは待っていないのだ。
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新潮文庫の海外名作発掘シリーズは、ノワールやハードボイルド系を中心に魅力的な作品が刊行されているが、稀有な企画で楽しみにしている。 今回は、正義感あふれるジャーナリストの物語。戦前のファシズム台頭期の作品で、漠然たる不安が色濃く出た作品。 日本で出なかった理由ははっきりしないが、著者の評価や小説として雑なとこもあったり、女性に暴力を振るう主人公だったりなどのキズがあるせいか。ただ主人公の正義に進む真摯な姿は胸を打たれ、真実を世間に曝すアクションは気持ち良い。分量も最後もう少し凱旋してほしいが十分だと思う。
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新潮文庫が《海外名作発掘 Hidden Masterpieces》シリーズとして銘打った作品群をぼくはできるだけ追いかけているのだが、最新作の本書は久々の当たりだった。自分が生まれる前どころか第二次世界大戦も未だ始まっていない時期、つまり二つの大戦に挟まれた時代に、こんなに熱く...
新潮文庫が《海外名作発掘 Hidden Masterpieces》シリーズとして銘打った作品群をぼくはできるだけ追いかけているのだが、最新作の本書は久々の当たりだった。自分が生まれる前どころか第二次世界大戦も未だ始まっていない時期、つまり二つの大戦に挟まれた時代に、こんなに熱くなれる作品が生み出されていたなんて全然知らなかった。 暗い大戦にまたも突入してゆく闇の時代、真実を求めるという立場で一日一日を必死に生きる新聞発行人の姿を描く熱い小説がここにあったのだ。新聞記者と言っても、現代社会で見られるのほほんとした姿からは程遠い、命知らずとも言えるべらんめえ性格の主人公マイク・ドーランは、口も行動も達者で無鉄砲なモテ男である。ほぼ彼の魅力と暗澹たる世情のコントラストで進められてゆく物語なのだが、脇役陣も凄く良い。主人公に口でも生き様でも負けない女性スタッフ・マイラとの丁々発止のやり取りだけでもスリリングこの上ない。 なお、主人公が劇団に所属していたり、いとも簡単に新聞社をクビになり、これまたいとも安易に新聞社を自力で立ち上げてしまうという無謀な決意も、はらはらひやひやの読み応えである。数々のキャラクターを登場させ街の雰囲気を活写させながらノンストップのぎりぎりなストーリーを語り続けてゆくこの作者、一世紀近い時を遡って作品が復活するだけあって、それこそ只者ではない。 作者が最も書きたかったのはおそらく主人公ドーランの生き様であり、彼の熱い日々だったのだろう。性と暴力。差別と戦争。貧困と滅び。そんな悲喜こもごもの時代と社会を描きながら、地方紙というビジネスに生きる者たちの危険と冒険とを、張りつめた鋼のような文体で繋いでゆくこの作品に、今出会えてよかったとしみじみ思う。 ノワールの範疇に入る作品だと思う。何よりも時代の悪が幾層にも描かれており、その中で貧困と資産家や政治家との格差がいやというほど叫ばれている小説である。それでいて何とも気持ちのよい主人公のまっしぐらさがぼくらの心を引っ張り続ける。今さらながらよくぞ訳してくれました、復活させてくれました。いつもながらの名訳、田口俊樹氏にまたも大感謝である!
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地方紙の記者をしているドーラン。社会の不正への怒りを抱え思うように記事が書けない現状から独立して自分で雑誌を作り始める。そこには権力への忖度などはなくドーランの怒りと絶望がある。80年以上前の作品なのに現在と通じるようなものがあって報道と権力の構図は今の物語のように感じられる。
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