フェイクを見抜く の商品レビュー
この本で秀逸だなと思ったのは、「両論併記で真偽をあいまいにする」というフェイクの論法に触れつつ、敢えて、陰謀論に対して両論をぶつという点。これによって読者の判断が大きく揺らぐことになるが、敢えて問題提起したという感じでもある。ちなみに、両論併記の論法とは、<多くの論文の蓄積により...
この本で秀逸だなと思ったのは、「両論併記で真偽をあいまいにする」というフェイクの論法に触れつつ、敢えて、陰謀論に対して両論をぶつという点。これによって読者の判断が大きく揺らぐことになるが、敢えて問題提起したという感じでもある。ちなみに、両論併記の論法とは、<多くの論文の蓄積により作られた学会の定説と、これとは全く違う少数の考え方を並列して紹介する方法>。両者の科学的な重みは全く違うのだが、記事を読む側から見ると、二つの考え方が同等であるように見える。一見、公平に見える取り扱いにより責任逃れをしながら、実は科学的に価値がない説を重要であるように見せかけるフェイクの事。その上で、その見抜き方をレクチャーする。 また、フェイクの論法の一つに、自分に都合の良い事実、衆目を集めそうな内容だけを編集して述べるという方法がある。例えば、福島第一原発のタンク内の処理水に含まれるトリチウムに対して、「生物に濃縮しやすいから危ない」と主張する学者。実際にそういう主張を載せている新聞の社説も。しかし、海洋放出された低濃度のトリチウムが生物に濃縮するという科学的な事実はない。社会心理学の本を読むと、「いくら科学的な事実を突きつけても、強い先入観を持つ人の考えを変えることはできない」という解説がよく出てくる。確かにその通りである。強固な考えをもった人に対して、「科学的にはこうです」と言っても、説得することは不可能だろう。 この本では、前述の原発の処理水の他にも、(お馴染み)ワクチンの話、甘味料の話、遺伝子組み換え食品、モンサントの話などが続く。賛否ある、という状態にまで大衆の目を胡麻化して、一定の境界領域を印象論と防衛本能でもって誘導していく。 最後に纏められている、信頼度(そういう題名ではなかったかも)指標があるが、論説に関し多くの査読が入るという意味でも説得力があり、非常に良くわかる。SNSで定説に意見するなら、査読前でも構わないから、試験結果とともに論文を見せてくれ、という事だ。 SNSなどに発表した個人の意見 0点 論文1報(試験管内試験・動物実験) 2点 論文1報 (ヒト臨床試験) 4点 複数の論文 6点 多数の論文分析(システマティックレビュー)8点 学界の定説 10点
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※このレビューにはネタバレを含みます
農学博士と元毎日新聞記者で、日々ファクトチェックのために戦われているお二人の共著。 このあたりのものの名著として、「食のリスク学(中西準子)」があるが、より戦っているからか、筆致が攻撃的。また、過去と比較すると、フェイクニュース関連がビジネスというか、むしろ構造的に産業化されていることがわかる。 また、元マスコミ人としての立場から、なぜ新聞社のニュースは一定の傾向が出てしまうのかについても、わかりやすく説明されている。 ちょっと熱い良書。 ただ結局、個人としてできるのは、「世界はなぜ地獄になるのか(橘玲)」の諦念にいたってしまう。大きな流れを止めるすべが思いつかず、悲しくなる。 とはいえ、お二人の活動には全面的に賛意を表したい。
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フェイクを作り出すマスコミの内部事情が語られています。 東大山室真澄教授の論文がファクトチェックされていて笑えました。ストレートですね。 堤女史にはお優しかったが。 https://seisenudoku.seesaa.net/article/502485076.html
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正しい情報を仕入れることは大事だけど、結局のところ、人は信じたいものしか信じようとしない。 そうなるとそれが真実かフェイクか、ということすら関係なくなってきてしまう。
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