戦争 の商品レビュー
2022年5月、ガリマール社から刊行された”Guerre”の日本語訳。冒頭に記された「編集についての注記」によれば、6つのシークエンスに分かれていた手稿をもとに誤字・脱字や判読の不確実な語の推定、行替えなどの処理を行ったとある。手稿に用いられた裏紙から、1934年頃の執筆との推...
2022年5月、ガリマール社から刊行された”Guerre”の日本語訳。冒頭に記された「編集についての注記」によれば、6つのシークエンスに分かれていた手稿をもとに誤字・脱字や判読の不確実な語の推定、行替えなどの処理を行ったとある。手稿に用いられた裏紙から、1934年頃の執筆との推定も。 内容的にはセリーヌ自身の第一次世界大戦の従軍経験をもとに書かれた作品。負傷した兵士たちの、死と隣り合わせになった投げやりな野戦病院での日々が、激しく情動的な文体で記述されていく。ポイントとなるのは、視点人物のフェルディナンの頭の中に砲弾の破片が入りこみ、たえず砲撃の音のような耳鳴りが響き続けている、という設定。塹壕戦に象徴される第一次大戦の戦場が、砲撃の轟音の中で兵士たちの心身を傷つけていった(シェル・ショック)ことはよく知られるが、この小説もそうした身体的な衝迫・衝撃をベースとして語られているといってよい。 また、「解題」で訳者の森澤友一朗が、この小説の舞台である「野戦病院」が、「前線と銃後、戦争と平和の境界線が不分明となっていく「宙吊りのトポス」」と描かれているのではないか、と論じたのは重要。身体が傷つけられることで恐怖と不安の中に取り残されてしまった兵士たちが、女性に対する(暴力的な)性行動を通じて男性性をどうにか取り替えそうとあがき続けている(そして、その企てはつねに挫折する)点にも目を向けたい。
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