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すべての見えない光 の商品レビュー

4.4

10件のお客様レビュー

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2024/08/22

銃が勝った、いつものことだ! 全身に響く本だった。泣きすぎて二重が消えた。 美しいフランス、ドイツ、ロシアの情景を通じて盲目の少女と、小柄な少年、周りの優しい人達が描かれる。 文章はとても平易でやさしい。 そしてその優しい言葉で、戦争でその人達が何もかも失う過程を容赦なく見せら...

銃が勝った、いつものことだ! 全身に響く本だった。泣きすぎて二重が消えた。 美しいフランス、ドイツ、ロシアの情景を通じて盲目の少女と、小柄な少年、周りの優しい人達が描かれる。 文章はとても平易でやさしい。 そしてその優しい言葉で、戦争でその人達が何もかも失う過程を容赦なく見せられる。 戦争は誰も勝たない。アメリカもイギリスも勝っていない。 勝ったのは銃、大砲、手りゅう弾、原爆、暴力。 負けたのは全ての人。鳥が好きなフレデリック、仕事を愛するまじめな錠前主任、そばかすだらけの空想好きな少女、科学と発明に夢中な少年、正義感あふれる女の子、たくさんの優しい大人たち。全て負けた。 美しいフランスの海と、寡黙な貝が、所々で泡立つ血を文章から拭ってくれるようだった。 奇跡のような本だった。

Posted byブクログ

2024/08/14
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

戦争は、悪いね、悪かったね、って責任を取ってくれない。 踏み込んできておいて、徹頭徹尾、無関心。 憎しみを増幅させるというより、関心を狭め、奪い去る現象だと思う。 そうではない可能性を言論と暴力でうやむやにして、私たちを一つにまとめる。 「負けてはならない戦いがそこにある」、華々しく喧伝される大号令のもと。 それぞれに見える光や聞こえる音、脈動する心臓などないように。 見るなと戒められても見ないでいることに心痛める者たちが、本書のなかで静かに息づいている。鳥を愛するフレデリック。海を愛するマリー=ロール。工芸を愛するダニエル。科学を愛するヴェルナー。絵画を愛するユッタ。語りを愛するエティエンヌ。教育を愛するエレナ先生。公正を愛するマネック夫人。フォルクハイマーはきっと平静を愛した。フォン・ルンペルだって宝玉を愛していた。 彼らが唯一絶対の基準、単一の物語に集約されうるはずがないのである。 そのことに戸惑いを覚えることだろう、だが慰安もあるのではないか。 頭上を照らす大いなる光がたとえ消えてもまだ希望はあるのだという、慰安。 アナーキズムの歩みは、だから永遠に不安である。だが不滅でもある。

Posted byブクログ

2024/08/18

憧れの小説。 圧倒的No. 1。 確か翻訳大賞を受賞されていたと思うけど、言葉が表現が文章がとても美しくて、内容と文章の美しさに感動して泣いた、そんな本は初めて。 この小説は何にも似ていない。 崇高で気品がある。 読み返したいけど、それをするには覚悟がいる笑

Posted byブクログ

2024/04/18

違う時間、違う場所にいる登場人物たちの視点で語られる断片的な情景がひとつの物語に集約されていく描写に圧倒された。映画を観たというかもはや自分で撮ったように感じるくらい引き込まれた。

Posted byブクログ

2024/03/23

時間軸や人物の視点が次々に入れ替わっていく、パズルのような構造の物語。第二次世界大戦を背景に、戦争が人々の人生を否が応でも変えていってしまう中盤まで、膨大な文章量も相まって読むのにエネルギーを使う。しかし、それまでの伏線を回収しながら全ての話が繋がっていくラストの約100ページは...

時間軸や人物の視点が次々に入れ替わっていく、パズルのような構造の物語。第二次世界大戦を背景に、戦争が人々の人生を否が応でも変えていってしまう中盤まで、膨大な文章量も相まって読むのにエネルギーを使う。しかし、それまでの伏線を回収しながら全ての話が繋がっていくラストの約100ページは圧巻。 長編小説ではあるが、ノンフィクションの要素も、ミステリーの要素も、詩の要素も、神話の要素も散りばめられている。作者の大胆かつ緻密な構成と、優しく丁寧な人物描写が素晴らしい作品。いつかまた読み返せたらと思う。

Posted byブクログ

2024/01/25

第2次大戦のフランスの盲目の少女マリー=ロールとドイツの機械に強い少年兵ヴェルナーの邂逅の物語です。マリー=ロールの物語とヴェルナーの物語が交互に入れ替わる形で著され、物語の先が徐々に明らかになっていく技法は小説独特で、盲目の少女の感覚と重なるようなイメージを読者に与えているよう...

第2次大戦のフランスの盲目の少女マリー=ロールとドイツの機械に強い少年兵ヴェルナーの邂逅の物語です。マリー=ロールの物語とヴェルナーの物語が交互に入れ替わる形で著され、物語の先が徐々に明らかになっていく技法は小説独特で、盲目の少女の感覚と重なるようなイメージを読者に与えているような気がします。マリー=ロールの持つ宝石の行方も気になる読者も多いと思います。物語の終わりは、世代の移り変わりによって、消えゆく者の定めを著しているように思えました。傑作だとは思うのですが、過去に読んだ名作と比べてののめり込み度合の部分で星4つにしました。

Posted byブクログ

2024/01/16

余韻の残る読後感、心がしばらくこの小説の中を漂いました。深く考えさせられる内容であり戦争のむごさに震えましたが戦後の主人公達の生きる姿にも触れられていて少しホッとしました、また人が生きる強さも感じました、

Posted byブクログ

2024/01/01

WW2の時代。盲目の少女マリーとドイツの若い兵士・ヴェルナーのラジオを通した物語。 「空気は生きたすべての生命、発せられたすべての文章の書庫にして記録であり、送信されたすべての言葉が、その内側でこだましつづけているのだとしたら。」 印象に残った場面は、戦争が激化していく中でドイ...

WW2の時代。盲目の少女マリーとドイツの若い兵士・ヴェルナーのラジオを通した物語。 「空気は生きたすべての生命、発せられたすべての文章の書庫にして記録であり、送信されたすべての言葉が、その内側でこだましつづけているのだとしたら。」 印象に残った場面は、戦争が激化していく中でドイツ国内でフランス語を使うことをためらうエレナ先生。戦争終結後ユッタ(ドイツ人)がフランスへ行くとき、拙いフランス語を使うことでドイツ人とばれるのを恐れる描写の対比。 また、ユッタがフランスのサン・マロで見た銘板(あれは実在だそうです)。そこにドイツ人兵士の名前はない。立場が変われば見えてくるものも違う。 ただ、1つ1つの話が3,4ページで変わっていくので、ストーリーに入り込むことがうまくできなかった。炎の海というダイアモンドの話も浅い部分で終わった気がする。マリーの父は主要人物かと思いきやそうでもなく、ヴェルナーの妹・ユッタもそう。ちょっと物足りなさを感じた。

Posted byブクログ

2023/12/16

まだナチス・ドイツが台頭してくる前の時代。 パリの国立自然史博物館の錠前主任を父に持つマリー=ロール・ルブランは幼い頃に目木見えなくなる。手先が器用でさまざまな難解な鍵を作る父は彼女の為に正確な街の模型を作り、マリー=ロールはその模型を手で辿る事で街の構造を覚え、盲目でも目的地ま...

まだナチス・ドイツが台頭してくる前の時代。 パリの国立自然史博物館の錠前主任を父に持つマリー=ロール・ルブランは幼い頃に目木見えなくなる。手先が器用でさまざまな難解な鍵を作る父は彼女の為に正確な街の模型を作り、マリー=ロールはその模型を手で辿る事で街の構造を覚え、盲目でも目的地まで街中を歩けるようになる。 一方でドイツ、エッセン地方のツォルフェアアインという炭鉱の街では炭鉱夫だった父を落盤事故で亡くしたヴェルナー・ペニヒと妹のユッタ。二人は孤児の集まる施設で育つが、ヴェルナーは科学に興味があり、ラジオを自作して遠い異国から流れてくる電波を受信して妹と二人で夢中になる。 ナチスが台頭してくると、ヴェルナーはその才能を買われ、ユッタを残してヒットラー・ユーゲントに入り、そこで敵軍の無線機を探知する仕組みを作るなどして、ドイツ軍に。 フランスがナチス・ドイツに蹂躙されマリー=ロールと父は海辺の街サン・マロに疎開し、引きこもりとなった大叔父と、彼の面倒を見る老婦人の世話になって暮らす。 盲目となり光を失ったマリー=ロール。電波という見えない光を追いかけるヴェルナー。全く知らない同士の二人が、第二次大戦のサン・マロという海辺の壁に囲まれた要塞のような街で交錯していく。 大戦前の豊かなフランスと、貧しいドイツ。 大戦初期のナチス・ドイツがフランスを占領しようとする頃。 そして戦争末期、連合軍と戦いを続けながらもフランスから撤退し、滅びようとしているナチス・ドイツ。 という三つの時間を行き来しながら、さらにはフランスのマリー=ロールとドイツのヴェルナーの周辺が交互に短い文章で断片的に語られる。 短い断片の積み重ねが読みやすい一方で、場面が頻繁に変わるので物語としては読みにくいところもある。 物語自体は歴史的な背景を知らなくても楽しめるが、ヒットラーが各国の美術品や宝飾品を集めていたこと、サン・マロはナチスの侵攻によって崩壊した連合軍が海に逃れた拠点であったことなど、歴史を知っているとまた違う読み方ができる作品。

Posted byブクログ

2023/12/16

第二次世界大戦下。フランス・パリの博物館で働く父と暮らす盲目の少女。一方は、ドイツの炭鉱町にある孤児院に妹と暮らすラジオに興味を抱く少年。 国も境遇も違う、戦争が無ければ決して巡り合わなかった二人の人生が、時間軸を前後しながら短い断章として交互に語られていきます。次第に戦争に巻...

第二次世界大戦下。フランス・パリの博物館で働く父と暮らす盲目の少女。一方は、ドイツの炭鉱町にある孤児院に妹と暮らすラジオに興味を抱く少年。 国も境遇も違う、戦争が無ければ決して巡り合わなかった二人の人生が、時間軸を前後しながら短い断章として交互に語られていきます。次第に戦争に巻き込まれて行く盲目の少女と少年の心情。そして、二人を中心とした他の人との交流が丁寧に描かれていて、美しい文章表現と相まって話しに引き込まれていきます。 ただ、読み終えた直後は、期待した結末ではなかったので、しばし呆然という感じでした。しかし、少し時間をおいてみると、この結末だからこそ、二人の邂逅がより輝いて感じられることに気付かされました。 それをより強調するためか、ドイツの下士官が追いかけているダイヤモンドが、気が遠くなるほど太古の昔からの時間軸の長さを表し、少年の親友が好きだった鳥が、目に見える空間の広がりと自由を表し、少女が好きな貝殻が、深淵な海の広さと深さを象徴していたかのようです。 それらの目に見える物資世界の広大さと経過した時間の長さに比較して、二人を引き寄せるきっかけであるラジオの音は、すぐ消えてしまい形が無く目に見えない儚いものです。そんなことを思い返してみると、タイトルと相まって感慨深い気持ちがしてきます。とはいえ、戦争の話しなので理不尽で悲しい気持ちも残りますが、それらの感情も含めて、とても良い読書体験ができたと思っています。 なお、盲目の少女が夢中になっていた、ジュール・ヴェルヌ『海底二万里』の内容が少なからず引用されています。『海底二万里』を未読でも大丈夫ですが、既読の人はより楽しめると思います。

Posted byブクログ