通信の信号処理 の商品レビュー

林和則(著者),田中聡久(監修)

2024/01/03

素晴らしい教材だと思う。通信システム信号処理はなかなかの学際分野だと思うが、その研究の最先端に至るために、一般的な信号処理論からもう何ステップか先までガイドしてくれる。
ウィルティンガー微分の重要性を訴えながら、古典的なZF、MMSE、比較的新しい圧縮センシング、アレー信号処理の新しい話題を回収している。さらに、制御分野でよく出る状態空間モデルの話題に触れ、最終章では確率推論の点からsum-productやPearlのBPアルゴリズムを解説している。図説は少ないものの、数式を用いてそれらの証明プロセスに至るまで丁寧に論理展開されていて大変勉強になる。相当ストイックではあるが、まえがきにあるように紙とペンで各手法を自分で説明できるようになったら相当な実力がつくだろう。個人的にはMUSIC、ESPRITはよく聴くがKR積拡張アレー処理は知らなかったり、5G NR標準仕様で採用されているLDPC符号とその復号の確率伝播法などを学べて良かった。