実力も運のうち 能力主義は正義か? の商品レビュー
「努力すれば報われる」という言葉の裏で、現代社会がいかに残酷な分断を生んでいるかを鋭く突いた一冊。マイケル・サンデルは、現代の能力主義(メリトクラシー)が、成功者には「すべて自分の実力だ」という傲慢さを、敗者には「自分の努力が足りないからだ」という深い屈辱を与えていると指摘する。...
「努力すれば報われる」という言葉の裏で、現代社会がいかに残酷な分断を生んでいるかを鋭く突いた一冊。マイケル・サンデルは、現代の能力主義(メリトクラシー)が、成功者には「すべて自分の実力だ」という傲慢さを、敗者には「自分の努力が足りないからだ」という深い屈辱を与えていると指摘する。成功の背景には環境や才能といった「運」の要素が大きく絡んでいるにもかかわらず、学歴や市場価値だけで人が評価されることで、社会に深いルサンチマン(怨念)が生み出されているという分析は非常に腑に落ちた。 著者は解決策として「仕事の尊厳」の回復や「運に対する謙虚さ」を提示しているが、個人的には、この分断を真に乗り越えるためにはもう一歩踏み込んだ物理的な施策が必要だと感じた。それは、富裕層と貧民層が互いを尊重し合えるような交流の場を、政府が半ば強制的にでも設けるように仕向けることだ。 例えば、図書館や美術館、博物館といった公共の場をハブとして、普段なら決して交わらない異なる階層の人々が同じ空間を共有する仕組みを作るべきではないだろうか。AIが台頭し、これまで「優秀」とされてきた旧来のスキルや処理能力の価値が揺らいでいくこれからの時代においては、本を読んだり、文化や歴史に直接触れるような実体験こそが、人間としての本質的な価値を高めていく。 そうした学びや体験の場に人々が集い、経済力や学歴という特定の物差しを一旦横に置くこと。そして、多様な他者との関わりの中でお互いの「人間の価値」を純粋に認め合うこと。それこそが、サンデル氏の提唱する「共通善」を社会に実装するための現実的な一歩になるのではないか。 自分の成功を「運のおかげ」と自覚する謙虚さと同時に、異なる層が交わり互いの尊厳を認め合う仕組みづくりこそが今求められている。自分自身の価値観や社会の見方を大きく揺さぶってくれる、必読の書である。
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「成果主義的な競争社会」が格差を正当化し、社会結束を損なっている。努力や能力(能力主義)によって得られる地位や報酬を過度に称賛する風潮は公平を謳っているが、不平等を生み出し、社会的連帯を崩壊させると言う。公正な社会を目指すなら、功績だけでなく「努力の背景」「機会の平等」「社会的支...
「成果主義的な競争社会」が格差を正当化し、社会結束を損なっている。努力や能力(能力主義)によって得られる地位や報酬を過度に称賛する風潮は公平を謳っているが、不平等を生み出し、社会的連帯を崩壊させると言う。公正な社会を目指すなら、功績だけでなく「努力の背景」「機会の平等」「社会的支援の分配」も考慮すべきだと主張しており、その公平性と機会の平等の実現には、教育・雇用・社会政策における介入が不可欠、だと主張している。結局、人材育成のための労力を惜しまず、教育の平等化を推し進めることを優先すべきだと言うことか。幾ら哲学的に平等と述べても、社会及び組織で難しい点は上司等の評価の違いであったり、その的確な指導的な役割と内容にも大きな違いがあると思う。それでも格差が出るのは生まれ持った家柄の属性、功績・能力と本人の特性、それと運命であるとしか言えない。
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サンデル先生を知ったのは『これからの「正義」の話をしよう』が最初ですが、そちらは読んでいません。何となく読もうと思ったのはこちら。一応読んだとは言えるが、アメリカの社会状況を理解していない部分があるのと、少々議論が長すぎて端折って読んだ部分もありで私は十分理解したと言えるかどうか...
サンデル先生を知ったのは『これからの「正義」の話をしよう』が最初ですが、そちらは読んでいません。何となく読もうと思ったのはこちら。一応読んだとは言えるが、アメリカの社会状況を理解していない部分があるのと、少々議論が長すぎて端折って読んだ部分もありで私は十分理解したと言えるかどうか。 親ガチャという言葉ができたのはいつ頃だっただろうか。そのひとことで語れるものではないが、この本の特に第4章の内容はその親ガチャという言葉の内容とかなり重なる。学力によらず入学を認めるようになっている大学が日本でも上から下まである。体育系以外の領域へのスポーツ推薦入学。女性優遇枠。在籍年月の分の学費を払えばよしとして学歴付与、つまり学歴を金で買うような低レベルの大学。経営資金のためにあるような大量の留学生枠。学歴による偏見の度合いは拡大しているのに容認されているのは日本でも同じ。トランプも学歴はあるが金で買ったようなものだろう。そしてこの本全体が、日本に向けて書かれているのではないにもかかわらず、日本の状況と重なる。この本の内容とは関係ないが移民問題も、日本には存在しなかったはずなのに問題化しつつある。日本以上にアメリカの後追いをしている国はないのではないだろうか。 最後の入試をくじ引きで決める件、興味深いが机上の空論でしかない。と思うが、スポーツ推薦枠や寄付金(学費)で入学可否が決まるなら、くじ引き枠があるのはむしろ機会の平等に寄与するのではないだろうか。 読んだのは文庫版だが、文庫版のための解説が当初の単行本の解説者により追記されている。この文庫本が出版されたのは2023年。文庫版のための解説ではトランプに代わってバイデンが大統領になったところで、「置き去りにされた人々」によるトランプ支持は一応の区切りがついたと書かれているが、トランプは再選された。この内容も、原著は2020年出版のようだが、現在も継続中だ。サンデル先生の洞察はそんなに浅いものではなかった…というか、長く言語化されてなかったものがサンデル先生によって言語化されたということだろう。 この問題は今後どうなるのか。ここで取り上げられている問題を問題視しない人も多いだろうね。学力によらず高評価の大学の学歴を得ている人は特に。だが小学校から大学まで、教育のありかたは国のあらゆる面に影響する。変わるのは簡単ではなく数十年の年月が必要だろう。
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頂点に立つ人びとは、自分は自分の手にしている境遇にふさわしい人間であり、底辺にいる人びともまたその境遇にふさわしいという独りよがりの信念を持ちやすい。 リベラル派 保守派 左派 右派 民主党 共和党 主流派 反主流派 ヒラリー トランプ 道徳的に行動する責任を負わせることと、われわれ一人ひとりが自分の運命に全責任を負っていると想定することは全く別である。 神は正義に叶う、神は全能、悪が存在 この三つの見解を同時に取ることは難しい →人間の自由意志 悪への責任を神から人間へ移行する考え リベラリズムの先駆者 しかし、自由意志を認めれば神の究極の贈り物である十字架にかけられたキリストという犠牲の意味を損ねる、神の恩恵を前にしての謙虚さが自らの努力に対する誇りに取って代わられてしまう 神に選ばれることは自力では決して不可能であり、そのために功績を上げてチャンスを増やそうとすることが冒涜である →断固たる反能力主義 ただ労働的な考えだと天職について頑張ることが救済のしるしだと見なし、これが選ばれる原因だとすり替わっていく 自分たちが神に選ばれたと確信しているせいで、宗教的貴族社会は地獄に堕ちる運命にあるように見える人々を軽蔑して見下した →能力主義的おごりの初期バージョン 選ばれたものは自力?自力でなく神の恩寵? 当時 成功は自力?幸福は制御できない要因? 現在 オバマはテクノクラート的な考えそのもの テクノクラート的なものとしてではなく、権力、道徳権威、信頼にまつわる民主社会に生きる市民にとっての問題としなかったことが問題 このようなことが現在のポピュリストの不満の政治であり、能力主義とテクノクラシーの失敗に向き合うことが共通善に向けた一歩 人びとが能力主義に不満を訴える場合、理念についてではなく、理念が守られてきないことについての不満であるのが普通だと 能力主義はもっと根の深い問題だとしたら?実現できないのではなく、理想に欠陥があるとしたら? 能力主義完全実現は正義にかなうか、いささか疑わしい 能力主義の理想は不平等の解決ではなく、不平等の正当化 才能を自分の手柄ではないと認めれば能力主義的信念は疑問にさらされる。才能の道徳的恣意性を無視し、努力の道徳的意義を誇張してしまっている。 ハイエクの自由市場リベラリズム 才能に対する世の中の価値の尺度が違っているから受ける報酬も変わるわけでそれはただの運である ロールズの福祉国家リベラリズム 才能のあるものが得た報酬を運に恵まれない人に分かち合う 努力の意欲さえ恵まれた家庭や社会環境によるもの これが立証されるかはそのコミュニティから恩恵を受けて、共通善に貢献する義務があるかどうか ハイエクの考えでも功績と価値の区別はできてるけど、お金が尺度となる市場経済の前ではほぼ能力主義と一緒 ナイトの考えだとハイエクの考え➕市場価値と社会的貢献は一致することが疑わしい 薬の売人 高額 小さな価値 教師 低額 大きな価値 平等主義リベラリズムは結局のところ、エリートの自己満足を咎めていないことを示唆しているのかもしれない 大学入試を適格者内でくじびき 能力を一基準として、最大化すべき理想としない グローバリゼーションプロジェクトは消費者の幸福を追求し、外部委託、移民、金融化などが生産者の幸福に及ぼす影響をほとんど顧みなかった。労働の尊厳の喪失 改善に向けて 生産者として役割 貢献の真の価値は賃金ではなく、対象の道徳的、市民的重要性 低賃金労働者への賃金補助、税負担を労働から消費へ 税務政策は道徳的側面を持つ、労働よりも投資の税率が低いのはgdp増加が目的、それは道徳的前提? 実体経済にとって無益で賭博めいた投機に悪行税を課す 能力の時代が破壊した社会の絆を修復する 完璧な平等を必要なのではなく、多様な職業や地位の市民が共通の空間で出会うことは必要
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能力主義の世の中、能力とされている内容は、純粋な自分の能力ではなく、偶然や機会・環境によって構成されている。 では真の能力主義を実現するためにはどうするべきか? 本来の能力以外の部分を平準化する「平等」の実現が必要である。 一個前に「これからの『正義』の話をしよう」を読んでいたので、スッと入ってきた。 サンデルの他の本を読んでから読むことをおすすめ。
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厚くて読みづらいが、第一次トランプ政権の頃の話しがそっくりそのまま今になっていて、アメリカ社会の理解が深まる
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昨今の世の中の混乱を西洋におけるプロテスタント倫理の崩壊と言う意見を聞くようになりました。 本書でもそのあたりを『自らの健康とささやかな成功を神に感謝する考えから、健康で成功するためにきちんとできる人間である事は神に愛されている証と言う考えに変わり、健康で成功するために努力する事...
昨今の世の中の混乱を西洋におけるプロテスタント倫理の崩壊と言う意見を聞くようになりました。 本書でもそのあたりを『自らの健康とささやかな成功を神に感謝する考えから、健康で成功するためにきちんとできる人間である事は神に愛されている証と言う考えに変わり、健康で成功するために努力する事が神に愛される原因と考えるようになり、健康で成功するための努力そのものが個人の選択と能力により獲得できるものと考えるようになり、ついには自分の運命は自分が握るものと言う考えに至った』とページを割いて説明しています。 自分の運命は自分で切り拓くものと言う考えは実に人間本位の考え方だと思います。 多分ですが、今の私があるのは私一人の手柄ではなく、親や友人や先生や他の誰や神様や運命が私に与えてくれたものと考える事が第一歩なんだと思います。 一度こう言う考えに立ち返る事で、私たちの価値や能力は本来は他の誰かとの関係性の中でしか評価できないものと気付けるのかもしれません。 人間には社会生活に積極的かつ生産的に参加したいと言う要素があり、これが満たされる事、つまり他人を承認し他人から承認される事を抜きにしては、分配だろうと流動性の向上だろうと、小手先のテクニカルな政治的な対処ではもはや意味を持たない事も良く理解できました。
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入試にくじびきを導入することを提案することが有名なサルデルのメルトクラシー Meritcracy に関する著書。本書のテーマである能力主義やアメリカンドリームといった一見もっともらしいものと、いわゆる公共善との間の矛盾を鋭く、というより丁寧に指摘している。 私は、このような観...
入試にくじびきを導入することを提案することが有名なサルデルのメルトクラシー Meritcracy に関する著書。本書のテーマである能力主義やアメリカンドリームといった一見もっともらしいものと、いわゆる公共善との間の矛盾を鋭く、というより丁寧に指摘している。 私は、このような観点について公平か平等か、といったよくある議論どまりの視点しかもっていなかったが、平等というもののロールズやハイエクの主張が無批判にいわば常識として自分に刷り込まれていたことに気付かされた。
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当たり前だと思ってきた「能力主義」というものを根本から考え直させられました。 努力すれば報われる、教育機会を広げれば公平になる…リベラルな考えに比較的共感してきて、これまで善意だと思っていた考えが、実は「成功できなかった人は失敗者」という偏見を助長しているのではないか、と気づいて...
当たり前だと思ってきた「能力主義」というものを根本から考え直させられました。 努力すれば報われる、教育機会を広げれば公平になる…リベラルな考えに比較的共感してきて、これまで善意だと思っていた考えが、実は「成功できなかった人は失敗者」という偏見を助長しているのではないか、と気づいて少し衝撃を受けました。 私たちは生まれてから受験、就活、昇進とずっと選別され続けています。何かしらの基準で「優れている」「劣っている」とラベルを貼られるのが当たり前になっていて、達成した人は驕り、達成できなかった人は自分を責めてしまう。 でも本当に大事なのは、そうした基準を超えて、どんな立場の人も尊厳をもって生きられることなのだと思います。 サンデルの提案する改善策は正直まだ現実味が薄い部分もあると思いますが、それでも「この社会の常識を一度立ち止まって疑う」きっかけを与えてくれる一冊でした。
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とても興味深い考え方と感じる。 確かに我々が選んでいると信じている人生についても、結局は運によるものなのかもしれないし、結局は親の裕福さに左右されているのかもしれない。 ただ、一つ言えることは昔よりも可能性は拡がっていること。 それが結果的に良い方向に向いているのかはわからず、貴族制度の時代の方が精神的尊重という点では優れており、人間にはそちらの方が良かったのかもしれない。 しかし、その制度に疑問を抱き、より良くしよう、したいと思う活動が今を作り、貴族制度を過去に変えたのなら、その過程や、そこから今抱える課題にで会えていることとして、人類は良い方向に進んでいるのかもしれない。 また数年後に読み返して、新たな視点で読みたい作品である。
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